子供から大人になって変化していく恋模様を描いた映画『秒速5センチメートル』。
男女での恋愛観の違いが感じられる映画で、テーマは面白いのですが…小説っぽいキャラの語りや『待ち』が多い恋模様は、個人的にはあまり好みではなかったですね。
どちらかといえば奥手な恋模様がお好きな方、キャラの心情が度々語られる映画がお好きな方におすすめ!
映画『秒速5センチメートル』の作品情報
あらすじ
秒速5センチメートルで、雪のように舞い散る桜の花びらを眺める小学生/篠原明里と遠野貴樹。
かと思えば明里が急に走り出して、貴樹が懸命に後を追いかけますが踏切に分断されてしまい…明里は踏切の向こうで「来年も一緒に桜、見れるといいね」と微笑みます。
それから時が流れ、中学生になった2人。
しかし小学校の卒業式の後、栃木に引っ越してしまった明里とは…何気ない日常や想いを綴った手紙のやり取りを定期的にするだけになっていました。
そして貴樹も親の都合で鹿児島に引っ越すことになり…貴樹は鹿児島に引っ越す前に、明里のいる栃木へ会いに行くことを決意します。
電車に乗っている間、貴樹は自分が東京に越してきた一年後に明里が越してきたこと・本が好きだったこと・自分たちは似た者同士だったことを思い出していました。
仲良くする二人をクラスメイトがからかうこともありましたが…二人でいれば怖くないと、中学生になっても一緒だと思っていたことを。
しかし明里の引っ越しが決まって一緒の中学校に行けなくなり、子供の自分たちではどうすることもできず…貴樹は明里に優しい言葉をかけることもできませんでした。
しかしもうすぐ明里に会える…約束の日、明里に伝えたいこと・聞いてほしいことをしたためた手紙を持って、ドキドキしながら明里の最寄り駅まで向かう貴樹。
しかし雪の影響で予定外に電車が遅れ、約束の時間はどんどん過ぎていき…。
予告動画
動画リンク
映画『秒速5センチメートル』の感想
【面白ポイント】
- 子供から大人になって変化する恋
- 小説っぽい映画
子供から大人になって変化する恋
子供から大人になって変化する恋模様が、すごく印象的な映画でしたね。
小学校までは似た者同士で仲良しの自分たちがずっと一緒だと疑わず、突然の別れに為すすべもなく悲しむだけの無力な存在でした。
でも中学生になって手紙のやり取りを続けて二人の縁を切らないようにしたり、電車を使って会いに行ったり再会を待ち続けたりするひたむきさ・行動力が生まれます。
しかし高校生になるとケータイで気軽に連絡できるようになったにも関わらず、照れ・臆病さから連絡を取れなくなり、二人の道は別れていきました。
そして大人になっても貴樹はずっと明里への恋心を大切に抱え込んでがんじがらめになっているけど、明里の方は他の人との交際・結婚とトントン拍子に進みます。
恋をエンジョイする女性と、恋を引きずって縛られる男性。
なんというかこれこそ男女の恋愛観の違いと言うか…子供から大人へ、少年から男性へ、少女から女性へ成長したからこそ変化する恋模様がすごく印象的でした。
ずっと好きだったけど昔のような行動力やひたむきさは失っていて、少しずつ確実に時間が進んでいってお互いの状況・相手の心情が変わっていく。
子供から大人になるまで、ずっと続く恋物語を描きつつも男女の恋愛観の違いから別の道を行くという恋模様が実に良かったですね。
ただ個人的に自らアクションを起こさない恋模様があまり好きではないので、もどかしいというか…当然の結末と思うフシがあって、泣けるとか可哀想とかはなかったかな。
小説っぽい映画
キャラクターの感情表現・語りの言い回しがすごく小説っぽくて、適宜キャラクター自身が心情を語ってくれるので色々と理解しやすかったです。
ストーリー展開も第何話とざっくり小学生〜中学校編・高校編・大人編と別れていて、状況の整理がしやすかったかなと思います。
あと音楽によるBGMがあまりなくて環境音が強調されていたのも、まるでどこかの公園・電車の中・学校で小説を読んでいるような気分になる映画でした。
これはこれで味があるし、キャラの心情・状況が理解しやすくて良いとは思うのですが…良く言えば詩的で儚げだけど、悪く言うと厨ニっぽくて自分に酔っている感が。
こういったテイストの映画や小説が好きな方には良いのかも知れませんが…映画らしい自由な解釈や受け取り方がなくて、少し窮屈に感じる節がありました。
何というか表情・場面・画角から何かを察するみたいなゆとりがあまりなくて、ストーリーを追っているだけに感じることが多かったです。
私がキャラの奥手な恋模様にあまり共感できなかったせいもあるかもしれませんが、あまり好みのテイストの映画ではなかったかなと思います。
映画『秒速5センチメートル』の考察
【考察ポイント】
- ラストの遠野貴樹&その後
- 篠原明里と貴樹の恋
- 貴樹と澄田花苗の恋
- ラストの踏切の意味
ラストの遠野貴樹&その後
明里を求めて東京で就職した貴樹は、騒がしい街並み・上手くいかない恋・荒れた生活に限界を迎えて退職し、思い出深い鹿児島に戻ったのではないかなと思います。
貴樹は小学生時代からずっと明里のことが好きで、でも大人になった今となってはもはや好きなのかどうかすら分からなくなっていたのではないかな。
自分でももはや分からなくなった恋心に縛られ、よく分からない意地・執着・固執・執念が自分自身を東京に縛り付けていたのだと思います。
でもどんなに明里を求めていても自分から連絡する勇気はない、ただただ会えるだろうと運命を信じて、彼女と出会った東京に住んで働き続ける日々。
しかし東京の人ばかりで騒がしい街や会社・出会えない想い人・新しい恋に進めない人生・それゆえに荒れゆく生活に…ついに貴樹は限界を迎えたのでしょう。
張り合いや生きがいのない人生・生きる意味を感じない・希望も楽しみもない…そしてある朝、この恋は諦めるべきだとやっと決心がついたのだと思います。
高校生・大学生・大人になってからの数年間…貴樹にとっては失恋を受け入れるためには、必要な時間だったのでしょう。
それと同時に、自分が居たい場所はここじゃないと気付いて…仕事を辞めると同時に東京を離れて、思い出深い大好きだった鹿児島に帰ったのではないかなと思います。
高校時代に宇宙系の夢を見ていたり大人になって雑誌の宇宙系のページを読んだりしていたことを思うと、宇宙へのロマンにずっと惹かれていたのでしょう。
線路を通って発射台へと向かっていくシャトル、ロケット発射の瞬間…何年もかけて宇宙に行って、謎を解き明かさんとする進歩・発展・ロマン。
そして東京と違って鹿児島の静かな田舎町も、ロケットを身近に感じられるロマンに溢れた情景も大好きだったのでしょう。
だから貴樹は東京を離れ、大好きだった鹿児島に戻って在宅でできる仕事を見つけて、彼らしい人生をやっとスタートさせるのではないかなと思います。
やっと自分を縛り付けていた初恋から解放されたのではないかな。
篠原明里と貴樹の恋
貴樹は小学生〜大人になるまでずっと明里のことが好きでしたが、アクションを起こさなかったから、明里は見切りをつけて次の恋へと進んだのだと思います。
明里は中学生の頃はせっせと貴樹に手紙を書いて、再会の時に遅れてやってくる彼を待ち続けるほどの辛抱強さ・愛情・ひたむきさ・純粋さがありました。
でも離れ離れの時間が長くなって手紙を書かなくなり、高校生になる頃にはもう新しい恋人を作って、大人になったら恋から結婚へと順調にステップアップしたのでしょう。
明里だって主人公のことは大好きだったでしょうが…やはり物理的に離れていたこと、彼から愛情を伝えてくれないことにしんどさを感じたのだと思います。
手紙を送るのも自分・メールを送るのも自分…彼からアクションを起こしてくれることは、一度もなかったのではないかな。
そんな状態が続いて「彼は本当に自分のことを覚えているか?」「今も好きでいるのか?」と不安になった結果…彼女の中で貴樹との恋が自然消滅したのだと思います。
貴樹はずっと明里からのアクションを待っていたし、自分から何度も連絡を取りたかったけどできず…ずっと明里への恋心を持ち続けて、待っているだけでした。
でももう明里はそんないつ来るかも分からない貴樹を待ち続けられるほど子供じゃない…辛抱強くないし、実直でもいられなかったのでしょう。
周りの子のように恋を楽しみたい・デートがしたい・将来は結婚だってしたい。
でもそれらを貴樹としている姿が想像できないし、彼から連絡もない…だから明里は終わった恋だと判断して、次の恋や結婚へと進んだのでしょう。
つまり貴樹は明里のことが好きだったけど自らアクションを起こさなかったから、明里は終わった恋だと見切りをつけて次の恋・結婚に進んだのだと思います。
明里の結婚相手
明里の結婚相手はもちろん貴樹じゃなく、ちゃんとデートできる距離にいて連絡がマメで、愛情表現をしてくれる男性だったのではないかなと思います。
結婚前に帰省していた明里が両親から「彼にうまいものつくってやれよ」と言われていたことを思うと、結婚後は専業主婦になる予定だったのかもしれませんね。
片や恋心を引きずってアクションも起こさず荒れた生活を送る貴樹、片や専業主婦になる予定の明里を愛し支える結婚相手。
何というか個人的にですが、明里の結婚相手は貴樹とは真逆のタイプの男性なのではないかなと思います。
貴樹と澄田花苗の恋
貴樹と高校時代の同級生/澄田花苗との恋は始まる前から終わったけど、花苗が告白していたら貴樹はOKしていたのではないかなと個人的には思います。
貴樹はずっとアクションを起こさないものの明里のことが好きで、大学も明里と出会った東京へと進む予定でした。
しかし高校時代の言動を見る限り、貴樹に花苗を拒絶する意図はないというか…むしろ好意すら寄せていたのではないかなと思います。
でも花苗は待ち伏せはできるけど、ときめきすぎて告白はできないし…貴樹の方も明里との恋模様を見る限り、自分から告白できるタイプではなかったのでしょう。
明里との恋もまだ引きずっているし…中学時代にあったような行動力を失って、思春期もあって自分から花苗に告白・アプローチできるようなタイプではありませんでした。
二人共が奥手故に恋は進展せず、花苗は貴樹が誰かのことを引きずっていると見抜いてしまったために…恋は始まることすらなく、終わってしまいます。
でももし花苗が勇気を出して告白していたら貴樹はOKしていたし、大人時代まで初恋を引きずることなく…明里への恋心を薄めることができたのではないかなと思います。
ラストの踏切の意味
ラストの踏切シーンには明里も自分を待っている・まだ好きでいてくれていると思っていたけど、そんな女性はもういないと踏ん切りがついたという意味だと思います。
桜舞い散る踏切を渡った時、反対側から明里が来ている・彼女も向こう岸で振り返って待ってくれていると感じて、貴樹は電車が通り過ぎるのを待ちますが…誰もいない。
貴樹は中学時代に会ったきりの明里を想い続けて、夢に見て…どこかに行く度に彼女かもしれないと、明里の幻影を見ていたのだと思います。
自分の中で美化された初恋は、彼女も自分を待っている・まだ好きでいてくれる・自分のそばに来ていると思わせますが…そんな女性はもういませんでした。
明里は成長して貴樹との恋に見切りをつけ、次の恋へと進んでめでたく結婚する運びに。
でも貴樹はそんなこと知らずに自分の理想通りの彼女の幻影を見続けて、いもしない彼女の幻影を追い続けていたのだと思います。
しかし小学生の頃とよく似た桜舞い散る踏切を渡る時、また見えた彼女の幻影。
違うかも知れない、でも彼女かもしれないと期待しながら貴樹は電車が通り過ぎるのを待ちましたが…そこには誰もいませんでした。
でも失恋を受け入れた貴樹は、もういもしない幻影の後は追わない…彼女とは逆方向に振り返り、自分の行く道に進み始めたという意味だったのではないかなと思います。
映画『秒速5センチメートル』の関連作品
映画よりも細かく心情が描かれているので、よりキャラへの理解が深まりました。
映画と似た感覚で読み進めやすい小説なので、今作がお好きな方におすすめ。
小説版とも映画版ともまた違った細やかさがあるマンガで、すごく興味深かったです。
明里というキャラクター、明里から見た貴樹の印象が映画版とは少し違っていて面白かったです。
まとめ
子供の頃から大人まで変わらない恋と変化した恋、男女の恋愛観の違いなどが感じられる映画でテーマはすごく魅力的でした。
ただ個人的に自らアクションを起こさない恋模様・キャラクターがあまり好きではないので、今作もあまり好みの映画ではなかったかな。
どちらかといえば奥手な恋模様がお好きな方、キャラの心情が度々語られる映画がお好きな方におすすめな映画でした。