普通の女性が少しずつ歪み始める映画『紙の月』。
普通の女性が主人公だからこその共感しやすさ、キャラクターたちの魅力、そして大人向け映画ならではのモヤッと感のあるラストが魅力的な、考察大好き人間の私のツボに刺さりまくる映画になっていました。
今作は主人公と自分を重ね合わせながら映画を楽しみたい女性、映画のあれこれを考察したい方におすすめな映画です!
映画『紙の月』の作品情報
あらすじ
バブル崩壊直後の1994年、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている主婦・梅澤梨花。
有能な銀行員という仕事面、優しい夫との2人暮らしという家庭面でも何不自由ない暮らしを送っているように見えた梨花でしたが、実は自分への関心が薄い夫や、女性であるが故に優遇される仕事に不満を抱えていました。
そんなある日、梨花は顧客の孫で大学生の光太という青年と出会います。
若い男性との熱い時を過ごすうちに梨花は光太のためにと顧客の預金に手を付けるようになり、彼女の日常は少しずつ歪みだしていくのでした…。
予告動画
動画リンク
映画『紙の月』の感想
【面白ポイント】
- 女性が共感しやすいテーマ
- 考察が楽しめる
- 悪い人はいない
女性が共感しやすいテーマ・ストーリー
今作は職場・家庭に不満を抱える女性が主人公ということもあって、女性が共感しやすそうなテーマ・ストーリーになっていました。
大口顧客ゆえのふてぶてしさがある顧客、女性軽視する上司、気遣いがあるようでない旦那と、そりゃぁストレス溜まりますわ…と言わずにはいられないオールストレスな環境で日々を過ごす主人公には同じ女性として共感しやすかったですね。
浮気・横領と超展開過ぎる部分や行き過ぎた部分こそあるものの、ストレスに悩み疲れていたときに自分のことを真っすぐに愛し・癒してくれる若い男性が現れたら…その男性に依存してしまうのも無理からぬことかなと理解できるものがありました。
なので日々にストレスを感じている女性、ストレスをため込んでいる女性、主人公と自分を重ね合わせてストーリーを楽しみたいという方におすすめな映画です!
考察が楽しめる
普通に観ているだけだとモヤッとする部分が多く、普通の女性が横領・浮気と悪事に手を染める様を見守るだけのストーリーになるので好みが分かれる作品かなとは思いますが、考察がお好きな方にはぜひおすすめしたい作品になっています!
モヤッとする部分があるからこそ、こうだったからこうなのかな、この伏線がここに繋がるのかなと想像・妄想という名の考察を楽しむ余地が残されているので、考察好きとしては視聴後も楽しむことができて良かったですね。
印象としては以前記事を書いた映画『万引き家族』と似ている部分もあったかもしれません。
犯罪行為を行う人々を見守るストーリー、キャラクターが秘めていた暗い過去、考察要素が多い部分とか結構似ていたように感じたので、万引き家族がお好きだったという方、考察好きな方にはぜひおすすめしたい作品になっています!
悪い人はいない
今作は全員に悪いところがありながらも、真に悪い人はいなかったのが印象的でした。
梨花は横領しているんだから悪い人だよ!と思われるかもしれませんが、彼女は愛情表現がお金・物品しかなかったために悲しい結末になってしまったものの、自分の幸せのために真っすぐ突き進むような普通の女性で…。
梨花の犯罪を暴いた隅も彼女が憎くてやったわけではなく、犯罪行為は暴かれるべきだという正義感の元に行動していただけですし、彼女に対しても自首を何度も促していました。
旦那も旦那なりに梨花を愛していたし、愛人も彼女を愛していたことに間違いはありませんでしたから…ただ不器用なためにお互いにすれ違ってしまっていただけで。
皆自分の幸せのために真っすぐに行動していただけ、梨花だけが特殊なわけではなく皆似たような部分があるというのがすごく印象的で、個人的には面白かったなと思います。
映画『紙の月』の考察
【考察ポイント】
- 梨花が浮気した理由
- タイトル『紙の月』の意味
- 梨花が横領した理由
- ラストに梨花がリンゴをかじった意味
梨花が浮気した理由
梨花が光太と浮気したのは、梨花が愛に飢えていたためだと思われます。
梨花は誰かに愛情を注ぐことに幸せを感じ、そしてその愛に見合っただけの愛を返してもらいたいと願うタイプの人間だったのですが、旦那や仕事にはいくら愛を注いでも愛情は返ってきませんでした。
そんな時に出会ったのが光太。
自分を真っすぐ見詰める光太の愛に気付いた梨花はその愛を返すために、そして光太なら自分が注いだ愛情を返してくれると思ったからこそ、浮気を始めたのではないかなと思います。
タイトル『紙の月』の意味
タイトルの『紙の月』は朝帰りした時に見た『偽物の月』、今までの自分の『偽物の世界』を表しています。
初めての朝帰りで見た月は指でこすれば消えてしまいそうなくらい薄く儚げで、まるで紙に書いた偽物の月のようで…そんな偽物の月が浮かんでいる世界はすべてが偽物なのだと梨花は気付きました。
学生時代の募金からずっと「なぜ手段を選ばずに人に愛情を注いではいけないのか」「なぜ自分の幸せのために行動してはいけないのか」という疑問を抱えていた梨花は、偽物のような月を見たことで「この世界が偽物だからか」と結論を出したのです。
そして偽物の世界ならば壊れてもかまわない、むしろ本物の世界を生きるためにも偽物の世界が壊れればいいのにと思い始めました。
つまりタイトルの『紙の月』には、偽物の世界での梨花の生き様を描きながら、偽物の世界を壊したいという彼女の想いが込められていたのではないかなと個人的には考えています。
梨花が横領した理由
これは3パターンの理由が考えられます。
幸せを共有するため、仕事に注いだ愛情を返してもらうため、偽物の世界だからどうでもいいや!というヤケクソの3パターン。
幸せを共有するためだとすれば…
始まりは愛人のためにお金が必要だったから横領を始めたのですが、そもそも梨花は「自分と同じように他人のためにお金をかけることがお金の持ち主にとっても幸せだ」という思考を持っているので、お金をくすねることに罪悪感はないのだと思われます。
横領をすると逮捕されるという罪の意識はあれども、悪いことをしているという罪悪感のようなものはなく、みんなも幸せになろう、人のためだからという使命感のようなものすらあるのではないでしょうか。
仕事に注いだ愛情を返してもらうためだとすれば…
彼女は一生懸命に仕事に打ち込み、大口の契約もいくつか取ってきていました。つまり職場に貢献していた=仕事に愛情を注いでいたのです。
愛情に見合った見返りを求める彼女としては、正当な権利としてお金を横領していたのかもしれませんね。
偽物の世界が壊れろと考えていたのであれば、自由に生きるために!とヤケクソでお金を持ち出したとも考えられなくはないですが、個人的には上記2パターンの方が有力かなと思っています。
ラストに梨花がリンゴをかじった意味
あれは梨花が注いだ愛情に対しての見返りだったのだと思います。
梨花は銀行から逃げたあとは学生時代に募金していた国を訪れ、 そこで募金活動をしていた時に手紙をくれていた現地の少年と出会いました。
このときに梨花はてっきり亡くなったと思っていた少年の生存を喜ぶよりも、昔募金した分のお返しをもらおう…そういえばお返しをもらっていなかったなと考えたのだと思います。
ずっと募金に対してお手紙を返してくれていたけれど、最後に5万円を募金したところでプロジェクトが中止されてしまったために梨花は最後の募金に対するお返しをもらっていませんでした。
だからすっかり大人になっている彼に、今こそお返しをもらおうと彼の販売しているリンゴをかじり、これがお返しだと自分の中で決めたのではないかなと思います。少年は梨花の顔を知りませんし、了承もなくやっているから普通に無銭飲食ですけどね。
また5万円のお返しがリンゴってどうやねんと思わなくもないですが、彼女にとっては正当な見返りなのでしょう…。
映画『紙の月』の関連作品
文章で楽しみたいという方は、ぜひチェックしてみてください。
まとめ
ただの横領事件をテーマにした作品かと思いきや、浮気・女性ならではのストレス・歪んだ愛情と様々な要素が盛り込まれた作品になっていて、考察も楽しみつつ個人的ツボに刺さるような魅力的な作品になっていましたね。
主人公に共感したい日々ストレスを感じている女性、考察好きな方にはぜひともチェックしてみていただきたいです!