刑事の男が美しい女性容疑者を追う、捜査・恋愛・葛藤を描いた映画『別れる決心』。
韓国映画に苦手意識があるので不安でしたが…まっすぐに歪んだ愛、考察まで楽しめるラストが魅力的な映画で、思っていた以上に面白かったです。
どちらかといえばまっすぐに歪んだ愛情表現がお好きな方、ミステリー×恋愛、美女の容疑者×追う男の組み合わせがお好きな方におすすめ!
映画『別れる決心』の作品情報
あらすじ
忙しい中、原子炉で働く妻のために料理を振る舞う愛妻家の刑事/チャン・ヘジュン。
ある日、崖から転落した男性の遺体が…早速捜査を始めたヘジュンのもとに、男性の妻だという美しい中国人女性/ソン・ソレは現れます。
ソレは夫が亡くなったというのに冷静で…調べてみると、元看護師で現在は介護人をしているソレにはアリバイがあること、夫から暴行を受けていたことが発覚。
最有力容疑者であるソレの尾行をするヘジュン…けれど被疑者であるということ以上に、彼女に惹かれるものを感じていました。
取り調べで海が好きだという彼女に同意して、彼女の独特な表現を笑い合って、夕食にと寿司を食べて…。
ソレが韓国独立功労者の末裔であることから、不法入国を図った彼女が特別に韓国入国を許されたことなどが分かりました。
取り調べ後、別件で犯人逮捕に乗り出すヘジュンをこっそり尾行するソレ…どうやら彼女も、ヘジュンに対して刑事以上の感情を持っている様子。
ヘジュンはソレにアリバイがあるとわかっても尾行を続け、ソレはそんな彼に微笑みかけて…不眠症のはずのヘジュンは、彼女を見ているとなぜか熟睡できました。
だから上機嫌にソレの監視を続けていたのですが、上司からは「その事件を追うのはやめろ」と言われてしまい…。
予告動画
動画リンク
映画『別れる決心』の感想
私は韓国映画が少し苦手で、状況理解が難しいこともあるのですが…今作はそれを乗り越えるくらいのテーマ性・ストーリー性の面白さがあって、観ていて楽しかったです。
事件を追う刑事/ヘジュンと、美しすぎる容疑者/ソレが少しずつ惹かれ合って、ヘジュンが仕事以上の感情を抱いてしまい籠絡されるという冒頭。
ここまでの印象は映画『氷の微笑』に似ているなと思いました。
今作の面白いところは、そこからソレもヘジュンのことを愛していて、自分から離れていった彼を追いかけて、再会するためにまた事件を起こすというストーリー展開。
何ともまっすぐに歪んだ愛情表現・アプローチ方法で、個人的には好きでしたね。
アニメ『ハッピーシュガーライフ』がお好きな方だと、この真っ直ぐに歪んだ愛には共感・感情移入できるものがあって、好きという方が多いのではないかな。
ちょっと不必要に感じるベッドシーン・下ネタが入るのが、最初は「うーん…」って思ったりもしましたが…。
最後まで観ると、それがあるからこそヘジュン夫婦には無遠慮な生活感、ソレとの愛には純愛を感じられる対比になっていたかなとか思いました。
ラストの視聴者に委ねるような結末も良かったし、映画視聴後の考察も楽しかったです。
ただベッドシーンがあること、愛情表現が真っ直ぐに歪んでいることから、万人受けする映画ではないのかもしれないなと思いました。
映画『別れる決心』の考察
ソレの選択した結末
ソレはヘジュンを愛しているからこそ、彼の未解決事件になりたくて…自分の好きな海で命を断つ選択をしたのではないかなと思います。
ソレの求める愛
おそらくだけどソレは何もかも投げ売って、永遠に自分のことだけを愛してくれる人・自分だけを想ってくれる人を求めていたのではないかなと思います。
なんというか家族的な愛というか、無償の愛ですね。
そして母親が穏やかな絶命を望んだとき、薬を盛ったことからも分かるように…愛のためならば、自らの手を血で染めることも厭わない人間だったように思います。
それくらいの愛を、ソレは他者にも求めていたのでしょう。
ソレがそこまでの愛を求めるのは母親を亡くしているから、祖父が歴史に名前の残る英雄だから、外国人として韓国で生きているから…かな。
けれど近寄ってくる男は、利己的・暴力的・支配欲の塊・犯罪者・脅迫者・詐欺師…ろくな男ではなかったようですね。
それも相まって、ソレは自分だけを永遠に愛してくれる人、無償の愛を注いでくれる人を求めていたのではないかなと思います。
ヘジュンへの愛
そしてついに…憎い夫を亡き者にしたとき、運命の相手とも思えるヘジュンと出会ったのだと思います。
犯人を執拗に・情熱的に追いかける彼は、ヘジュンにとって理想そのもの…そして彼を知れば知るほど、その想いは確信に変わって強く惹かれていったのでしょう。
けれど愛するヘジュンは、自分と出会ったことで刑事の誇りを失った・自分自身が崩壊したと…事件が『事故』と処理されるとともに、ソレのもとを去っていきます。
ソレが彼を引き止めなかったのは、彼が自分よりも『刑事としての自分』を選んで、自分と別れる決心をしていたから…かな。
やっと理想的な男性と巡り会えたと思ったのに、ヘジュンが自分とは別の存在を選んだから、二人は一度別れたのではないかなと思います。
ソレの行動理由
ソレは彼のあとを追って出会いをやり直し、彼の永遠になるためにもう一度夫を亡き者にして、自分を捕まえられないように自ら命を断ったのではないかなと思います。
前回は事件が『事故』として処理されてしまったために、二人に別れが訪れました。
だから今度は事件を終わらせない、彼にソレよりも『刑事の自分』を選ばせないように…未解決事件を作ることにしたのではないかなと思います。
事件の真相を語らない・認めない、自分を捕まえさせない。
こうすることでヘジュンの部屋に永遠に写真が貼られ、彼の頭の中には永遠に自分が残り続ける・永遠に探し続けてくれる・求め続けてくれると思ったのでしょう。
ソレは愛のためなら命を奪うことすら厭わない、それは自分の命に対しても同じことだったのではないかな。
二人の愛が永遠に続くように、そのためだけに夫だけではなく自分自身の命すらも奪う選択肢を選んだのではないかなと思います。
穴に埋まった理由
入水ではなく穴に埋まるという方法を選んだのは、遺体が出てこないようにするため+海が好きだから+山や土地に縛られたくなかったからだと思います。
ただ単に命を断っただけでは、遺体という証拠品が残ってしまう…それを防ぐために満潮時には浜がなくなる場所で生き埋めになったというのが理由1。
理由2は冒頭で言っていたようにソレは海が好きだったから、そして「証拠は海の底に沈めてくれ」とヘジュンが言っていたからだと思います。
海のそばに停めてあった車、見当たらないソレ…ヘジュンが海を探し回ることを見越して、灯台下暗しになるために埋まったのではないかな。
理由3は、山に縛られたくなかったというのがあるのではないかなと思います。
ソレの祖父は韓国にある山と関連があって、母親はずっと「その山はお前のものだ」と言い続けてきました。
そして彼らのお骨も、その山に撒いた。
でも彼女自身も言っていたように、その重責は彼女にとっては重すぎたのでしょう。
高所恐怖症だし、私は私と…一族が固執した山ではなく、自分が好きな海で最期を迎えたかったというのもあるのではないかなと思いました。
タイトルの意味
第二の事件は、真犯人行方不明で未解決事件になるわけだけれど…あえてその事件の犯人・動機を上げるとすれば、別れる決心だったのではないかなと思います。
ヘジュンはソレへの愛ゆえに刑事としての自分が崩壊したと…それでも刑事でありつづけるために、彼女と別れる決心をしました。
すごいざっくり言うと、ヘジュンは『ソレへの愛』よりも『刑事としての自分』を選んだということだと思うんですよね。
ヘジュンとしては容疑者だった美女と刑事である自分が事件後も親しくしていたら、不正があったかもと疑われるからと、泣く泣くの別れだったのかもしれませんが…。
どんな理由であれ、自分以外のものを選んだヘジュンがソレにとってはどうしても許せなかったのだと思います。
だからこそ、次はそうはさせないという意気込みのもと、第二の事件に繋がったのでしょう。
つまり第二の事件の動機・真犯人、もっと言えばソレも命を奪われたといっても過言ではなく…全ては『ヘジュンの別れる決心』につながるのではないかなと思います。
もしヘジュンがソレと別れる決心をしていなければ、ヘジュンを選んでいれば…第二の事件も起きなかったし、ソレが自ら命を断つこともなかったのではないかな。
録音された「愛してる」の言葉
ヘジュンが自分の罪を告白している録音を、ソレが「愛してる」と受け取ったのは、日本人的に言う「月が綺麗ですね=I Love You」だったのではないかなと思います。
ヘジュンは刑事として誇りを持っていて、愛するソレと別れてまでも刑事で居続けることを選ぶほど…刑事=自分といっても過言ではないくらいの人間でした。
そんなヘジュンが「僕はもう完全に崩壊しました」というのは、『自分を壊すくらいにソレを愛してる』とも受け取れるように思います。
全てを投げ売って自分を愛してくれる人を求めていたソレは、その言葉を「愛してる」と同義だと受け取った。
けれどヘジュンの表情から同時に、別れの決心を感じ取ってしまったのでしょう。
おそらくだけどそのあとに母親の骨壷の方を見て涙を流していたことを思うと、愛する母親を亡き者にしたときの自分とヘジュンが重なったのではないかなと思います。
愛してる…だから、さようならと。
「僕はもう完全に崩壊しました」という言葉をソレは「愛してる」と受け取ったけれど、別れる決心も窺えたからこそ涙していたのではないかなと思います。
ヘジュンの妻はどこに行った?
ヘジュンの妻はおそらく彼の心変わりを察して、離婚して家を出ていったのではないかなと思います。
ヘジュンは妻を愛していたし、妻もヘジュンを愛していたように思いますが…ヘジュンは妻のそばでは常に『刑事の自分』でいたように感じました。
刑事として常に全てに気を張っていて、夜も眠れないほど緊張状態で、全くリラックスできていなかったのではないかな。
けれどソレのそばでは熟睡できたことを思うと、彼女のそばでは『素の自分』でいられたのでしょう。
強く惹かれていたからなのか、素の自分でいられる魅力を彼女が持っていたからなのかは分かりかねるけれど…ヘジュンにとってソレは癒やしだった。
ざっくり言ってしまうと、自分の中の優先順位が『ソレ>刑事>妻』になっていたのではないかなと思います。
妻はソレと出会ったときからヘジュンとの関係性に違和感を持っていたし、その直後にソレの夫が亡くなって…違和感は確信へと変わっていったのでしょう。
だからこそ心変わりした…というか、自分よりも愛する相手を見つけた夫を見限って、自分も新しい相手を見繕って家を出ていったのではないかなと思います。
車で荷物を運び出していた同僚の男性が、おそらくは新しい交際相手。
映画冒頭で「同僚が意地悪なことを言ってくる」と下ネタじみた話をしていたことを思うと、前からモーションは掛けられていたのではないかな。
妻はその誘いに乗っただけといえばそれまでだけれど、そんな話をわざわざ夫にしていたことを思うと…前々から何がしかの不満・愛情不足は感じていたように思います。
だから妻が家を出ていくというのは、ソレのことがなくても起こった出来事というか…なるべくしてなった結果ではないかな。
結局事件の犯人は誰?
最初の夫の事件の犯人はソレ、そしてその共犯になったのがヘジュン。第二の事件の犯人は詐欺被害者の息子で、そのきっかけとなる犯行をしたのがソレでしたね。
最初の事件では介護人として働くソレが、担当している老婦人のスマホを自分の物とすり替える&アリバイ作りに利用した上で、夫を崖から突き落としていました。
ヘジュンはそのことを突き止めたのに、ソレを愛してしまったがゆえに…刑事の誇りを崩壊させてまで、彼女が残した最後の証拠品処分に協力して共犯者に。
これによって第一の事件は『事故』として処理されました。
第二の事件は詐欺まがいのことをしていた再婚相手に恨みを抱く、詐欺被害者の女性の息子が犯人…というか、実行犯でしたね。
けれど実際は詐欺被害者の女性をソレが亡き者にしていて、実行犯が事件を起こすように仕向けていました。
ヘジュンはそれを突き止め、ソレを追いますが…ソレが自らの身を隠すことによって、事件は『未解決事件』として終わったのではないかなと思います。
実行犯である詐欺被害者の息子は逮捕・自白も得られたけれど、真犯人は証拠不十分で完全解決はできないでしょう。
映画『別れる決心』の関連作品
真っ直ぐに歪んだ純愛がお好きな方におすすめです。純愛。
追う男×妖艶な美女の組み合わせがお好きな方におすすめです。
まとめ
韓国映画に苦手意識があるので、最初はちょっと「うっ…」となることもありましたが、最後まで観ると面白かったとなる映画で良かったです。
キャラたちの真っ直ぐに歪んだ愛情表現が個人的に好きだったし、ラストの考察次第な締め方も視聴後の楽しみがあって好きでしたね。
なのでどちらかといえばまっすぐに歪んだ愛情表現がお好きな方、ミステリー×恋愛、美女の容疑者×追う男の組み合わせがお好きな方におすすめな映画でした。