恋人を救うため、データ内で戦う少年を描いた映画『HELLO WORLD』。
ちょっとハイテンポ過ぎるものの…データ内のキャラクターが人間のように表現されているテーマと、過去と現在が行き交うSF恋愛ストーリーが魅力的な映画でした。
なのでどちらかといえば未来と過去が交差するSF恋愛ストーリーがお好きな方、考察することで楽しみが広がるような映画がお好きな方におすすめ!
映画『HELLO WORLD』の作品情報
あらすじ
2027年、街の歴史が常に記録されている京都に暮らす男子高校生・堅書直実。
引っ込み思案で友達がおらず、いつも1人で本を読んでばかりの直実は変わりたいと思いながらも、行動に移せず変わらない平凡な日々を送っていました。
そんなある日、直実の前に突如として10年後のカタガキナオミだと名乗る人物が現れます。
ナオミはこの世界が京都の歴史を記録している量子記憶装置・アルタラ内のデータであること、未来の恋人・一行瑠璃が事故にあう未来を書き換えに来たと説明しました。
データ内でだけでも幸せな彼女が見たい、データ世界に干渉できない自分の代わりに彼女を助けてほしいと頼むナオミのため、協力することを決意する直実でしたが…。
予告動画
動画リンク
映画『HELLO WORLD』の感想
【面白ポイント】
- 現実と過去が交差するSF恋愛
- データの表現が面白い
- かなりハイテンポな映画
現実と過去が交差するSF恋愛
恋に落ちた少年時代の短い恋と、恋人になったばかりで離れ離れになった青年時代の長い恋が科学の力で交差する恋模様が実に切なくて儚かったですね。
両方とも恋人だった期間は短いのですが、短い初恋だったからこそ…突然の別れだからこそもう1度会いたいと願い、時代を超えて迎えにくいガムシャラさが良かったです。
短い初恋だけど情熱的で…すごく一途で純粋な恋心には切なさ・後悔・思い出・愛情といった色々な感情が入り乱れていて親しみやすさがありました。
イメージとしては映画『君の膵臓をたべたい』と似ていましたね。
大人の自分と過去の自分、儚い運命を背負う恋人、図書委員…ざっくりとした設定が似ているためか、何となくイメージが重なることが多かったです。
なのでどちらかといえば未来と過去が交差する恋愛ストーリーがお好きな方、君の膵臓をたべたいがお好きな方におすすめの映画でした。
データの表現が面白い
データの中の瑠璃を奪われたことで悲しみ、世界の崩壊や襲いくるシステムに怯える直実という…データを擬人化させたような表現がすごく面白かったです。
タイムマシンのようなものを使って過去に行くのではなく、データの中に入り込んでいるからこそ出会えるデータ内の自分。
でもアルタラが高性能だからこそ自分だけど自分じゃないというか、データ内の自分にも独立した感情や思考があるというのが面白かったですね。
本来であれば植物状態の恋人のためにデータ内から精神を引っ張ってくるという、未来的な救い方をしてハッピーエンドになるはずが…。
データ内の瑠璃を連れ去ったナオミは悪人になってしまう…ヒーローなのに悪者で、1データの直実がヒーローになるという表現が面白かったです。
何だかPCやスマホ内のデータを消す時に、今後思い出しそうになるくらいリアルな表現で個人的には好きでしたね。
なのでデータを擬人化させたような面白い表現がお好きな方、悪と正義が入れ替わるような絶妙な表現がお好きな方におすすめな映画でした!
かなりハイテンポな映画
データの中の世界・過去と現在・直実の手にした力・データ世界を守ろうとするシステムなど、複数の要素が絡み合いつつも映画はかなりハイテンポに進みます。
SFな世界観を説明するためにセリフは多いものの、基本的にはザッと説明したらすぐ次の展開に進んでいきますし…。
力を手にするための修行シーンや日常シーンなどはダイジェスト形式で紹介されているので、全体的にスッキリとしたストーリー展開になっています。
何というか1.5倍速で映画を観ている感じに近かったですね。
なのでテンポが良い反面、ストーリー展開が早すぎる故に余韻や感情移入する隙がなくて、イマイチ共感しきれなかったり「ん?」ってなったりする一面もありました。
印象としては映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に似ていましたね。
映像はキレイだし、テーマは面白いんだけどイマイチ共感しきれないというか…考察は面白いんだけど何か惜しい感じがする雰囲気がよく似ていました。
なのでどちらかといえば普段から1.5倍速で映画を観ている方、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』がお好きな方におすすめな映画です!
映画『HELLO WORLD』の考察
【考察ポイント】
- ラスト1秒の意味
- ナオミが植物状態の理由
- ラストの瑠璃と直実がいる世界
ラスト1秒の意味
ラストでナオミが眠りから覚めて瑠璃が涙ながらに喜んでいたのは、植物状態から目覚めた瑠璃が今度は植物状態になってしまったナオミを目覚めさせたからだと思います。
おそらくナオミがアルタラ内に入り込んで瑠璃のデータを肉体にアップロードしたことで瑠璃は目覚めたのですが、今度はナオミが戻ってこれなくなっていたのでしょう。
瑠璃が入り込んでいたと思われるカラスが喋り始めたタイミングを考えると、瑠璃が目覚めたのはナオミがアルタラ内の瑠璃を連れ去ったタイミング。
あの時に現実世界の瑠璃は目覚め、今の状況・ナオミが今まで自分のためにしてくれていたことを知ったのだと思います。
だからアルタラ内ではナオミを直実ではないと拒否気味だった瑠璃が、アルタラ内にナオミを助け出しに行くことを決めたのでしょう。
ナオミを助けるために瑠璃がカラスの姿をしていたのは、アルタラ内で直実のサポートがしやすいからというのと、システムの2重検知を避けるためだったのだと思います。
瑠璃の姿でアルタラに入ってしまうと、直実&ナオミのように同じ人物が2人いるバグを解消しようとシステムが排除しに来てしまいますからね。
ちなみにナオミを起こすための研究所が月にあったのは、アルタラのデータが地球では収まらなくなってしまったからでしょう。
つまりはナオミがアルタラ内に入り込んだときよりもデータが膨大になるほど、長い時が流れてしまっていたということを意味していたのではないかな。
そんな時間をかけてでも、瑠璃は自分を助けてくれたナオミのために植物状態から目覚めさせようと努力し続けていたのだと思います。
ナオミが植物状態の理由
ナオミがラストで植物状態になっていたのは、アルタラ内の直実から瑠璃を奪い取ったことで、データに入ったときと精神状態が変わってしまっていたからだと思います。
ナオミは子供時代に失った大切な人を守りたい・助けたいとアルタラ内に入り込んだはずなのに、結局過去の自分から瑠璃を奪い去った…。
そのことが罪悪感や自分の目的との矛盾となって心に残ったために、アルタラから出られなくなってしまっていたのだと思います。
アルタラ内の精神が肉体に戻るためには、精神が肉体を出たときと同じ精神状態であること…つまりは肉体と中身の同期が必要になりますからね。
現実世界に戻れないのに戻ろうとしたナオミは、アルタラ内に少年時代から10年後の世界…ナオミにとっての現代の世界線をつくってしまったのだと思います。
アルタラ内から出るためには子供時代の直実に瑠璃を返すこと、そして大切な人を守りたい・助けたいと思うことが必要だったのではないかな。
そしてアルタラ内に入ったときの大切な人は瑠璃でしたが、弟子として直実と共に過ごしたことでナオミにとって直実も大切な人になっていたのだと思います。
だから身を挺して直実を守ったことでアルタラに入り込んだときと同じ精神状態になった…そのタイミングで瑠璃が現実世界にナオミを引き戻したのではないかな。
こうして器と中身の同期不全という植物状態の原因は解消され、ナオミは目覚めることができたのだと思います。
ラストの瑠璃と直実がいる世界
ラストの瑠璃と直実がいた世界は現実世界からの干渉を受けない、アルタラから飛び出した全く新しい世界になっていたのだと思います。
現実世界に戻れないナオミがアルタラ内に現代世界を作り出したことで、10年前の直実がいる世界はアルタラのさらに内側にあるアルタラになってしまいました。
そして現代世界で博士がアルタラのシステムを停止させたことで、直実がいる世界に無限のデータが広がった…つまり無限の世界=新たな宇宙が誕生したのでしょう。
所詮は有限のアルタラ内のデータに過ぎない現代世界では、無限の世界になったアルタラを保持することができないので、アルタラは消え去ってしまったのだと思います。
そして直実たちのいる新しい世界は現代のアルタラだけではなく、現実世界のアルタラからも飛び出して新しい宇宙になったのではないかな。
もうただ起こった事象を記録するだけの装置ではなく、データ内の人物たちが自分の人生を自由に生きていく…現実世界とは違う世界になったのでしょう。
簡単な言い回しをするとデータとしての範疇を超え、現実世界とは似ているようで異なるパラレルワールドの1種になったのだと思います。
映画『HELLO WORLD』の関連作品
一文が短く読みやすい作品なので、小説が苦手…という方にもおすすめです!
映画が苦手だった…という方には、マンガ版の方が向いているかもしれません。
まとめ
テーマやストーリーは面白いんだけど、何だか分からないまま終わるというか印象に残らないというか…何とも惜しい映画でした。
ただ分からないまま終わっている部分が多いからこそ、視聴後の考察は楽しかったです!
なのでどちらかといえば雰囲気の良い映画がお好きな方、視聴後の考察がお好きな方におすすめな映画でした!