幸せな家族に迫る不気味な少女を描いた映画『エスター』。
キャラの背景が重たいせいか真っ直ぐに歪んだ狂気が怖いだけでなく、どこか切なさや悲しさも詰まっているような独特な空気感のある映画で面白かったです。
なのでどちらかといえばキャラの過去に重さがある映画がお好きな方、狂気の中に悲しさも感じさせるような悪役がお好きな方におすすめ!
映画『エスター』の作品情報
あらすじ
大切な我が子を出会う前に失った女性、ケイト・コールマン。
依存症に悩みながらもカウンセリングに通い、優しい夫・ジョン、難聴の娘・マックス、お年頃の息子・ダニエルと穏やかな日々を送ることで快方に向かっていました。
そんなある日、夫婦は孤児院で出会ったミステリアスな少女・エスターを養子として迎えることにします。
優しく手話にも関心を示すエスターにマックスはすぐに懐き仲良くなりましたが、年頃なダニエルは彼女がちやほやされることが面白くないようでした。
悲しい過去を感じさせないほど明るく好奇心旺盛、知的で礼儀正しいけれど強い自分の意思を持っているエスター。
しかし彼女の強い意思の中には、歪んだ狂気が隠されていました。
動画リンク
映画『エスター』の感想
【面白ポイント】
- キャラの背景が重い
- 真っ直ぐに歪んだ狂気
- エスターにも同情できる
キャラの背景が重い
コールマン一家・養子・エスターといったキャラたちの背景が思った以上に重くて、感情移入しやすいけど悲しかったですね。
初っ端から赤ちゃんを失う悪夢から始まる時点で、なかなかに心に来るものがありました。
赤ちゃんを失うってことは思い描いた未来を失ったということだし、お腹の中にいる時に失うなんて…想像もつかないくらいすごいダメージを負ったことでしょう。
その件がきっかけで依存症になって、依存症のせいですでにいる子供も失いかけて…もう言葉が見つからないくらい切ないし悲しいかったですね。
養子の件も、どんなに良い子を迎えてもその子の過去全てを知ることはできなしい、すでに自我ができあがっている子にどう接すれば良いのか悩むでしょうし…。
子供たちだって急に妹だって来られたって受け入れられないでしょうし、学校で茶化されると恥ずかしいし悲しいしで…難しいなと感じましたね。
狂気に走るエスターにもどこか悲しさ・悲痛さがあるせいか、彼女自身にも悲しい過去があるのだろうと感じさせられて…。
キャラ1人1人に重い背景があることで粒だっているし、感情移入しやすいというメリットがある反面…もう全体的に悲しいし切ないし重かったです。
なのでどちらかといえば悲しい過去や重い過去を背負っているキャラクターがお好きな方、個性や過去がちゃんとあるキャラがお好きな方におすすめな映画でしたね。
真っ直ぐに歪んだ狂気
エスターの狂気には子供のように真っ直ぐな純粋さと、大人らしい歪みと狡猾さという相反する2つが同時にあるように感じられて怖かったですね。
嫌い・したくないというシンプルにネガティブな感情から攻撃する純粋さと、好き・欲しいと思うものには執着して縛り付けようとする狡猾さ。
子供らしい理由から大人らしい理由まで、全て残虐・狡猾・的確に狙ってくるというストレートな感情表現と躊躇いのない行動力が怖かったですね。
何というか人間だとこれはしちゃだめ・常識的にしてはいけない・犯罪を犯す恐怖などがあって、躊躇いや断念する道を作り出すものですが…。
エスターにはそれがなくて、何というか大人だけど子供よりも子供っぽい部分があってそれが逆に怖かったです。
子供のフリをしていたからこそ大人とも子供とも違う存在になっていて、真っ直ぐさと歪み・純粋さと狡猾さが入り乱れているような狂気でしたね。
というよりも大人がイメージしている子供だからこそ、自分の中のストッパーが外れてしまっているという印象の方が近いかな?
何とも絶妙なバランスで保たれている大人っぽさと子供っぽさのある狂気で個人的には好きでした。
なのでどちらかといえば真っ直ぐに歪んだ狂気がお好きな方、大人のような子供のような相反する2つが入り交じる狂気がお好きな方におすすめな映画でしたね!
エスターにも同情できる
自分の欲望のままに幸せな一家を壊すエスターの狂気・残酷さ・恐怖がメインの映画ではあるのですが、個人的にはエスターにも同情できる部分はあるように感じました。
病気が原因で身体が子供のまま成長せずいつだって子供扱い、大人として生きるよりも子供としての方が生きやすい現実。
大人らしいカッコいい服・セクシーな服が着こなせない・同い年の友達が作れない・恋をすることも結婚することもままならない・仕事にも就けない…。
そんなことが20年近くも続けば、それは精神も病むよなと思わざるを得ませんでした。
現代であればもう少し選択の幅が広がったり、寄り添ってくれる人が見つかる可能性も高かったのかもしれませんが…2000年代の世界だと今以上に厳しいですもんね。
それに例え理解者や受け入れてくれる人が見つかったとしても「自分がこの見た目だから」「可哀想だから」と寄ってきていないという確信を得るのは難しいですから…。
エスターの「子供扱いしないで」という誰にも頼りたがらない性格を考えると、自分にない幸せが詰まった家庭を憎むのも理解はできましたね。
印象としては映画『ジョーカー』に似ていました。
悲しい過去・自分の病気を抱えて、それゆえに周りを憎んで狂気に走ってしまうという切ない悪役というキャラクターがよく似ていましたね。
なのでどちらかといえばジョーカーがお好きな方、悲しみ故に狂気に走る悪役がお好きな方におすすめな映画でした!
映画『エスター』の考察
【考察ポイント】
- エスターの正体&ラストの意味
- コールマン一家のその後
- エスターが首・手首を隠せた理由
- トイレでエスターが暴れた理由
- エスターのステーキの食べ方
- 壁の絵の意味
- 聖書をずっと持っていた理由
エスターの正体&ラストの意味
華やかな化粧を落として可愛らしい服を脱ぎ、入れ歯を外した老けた顔こそがエスターの本当の顔だったのだと思います。
彼女は人生のほとんどを子供として過ごしてきたと言われていましたから、子供に見せるためのグッズ・技術を持っていたのでしょう。
乳歯の入れ歯
ラストでエスターには歯があるにも関わらず入れ歯をしていたのは、乳歯と永久歯の違いをごまかすための物だったのだと思います。
33歳のエスターにはすでに永久歯が生え揃い、黄ばみや歯周病がありましたが…子供の歯がその状態だと不自然なために入れ歯をしていたのでしょう。
おそらくは別の家族を襲った後に手にした金で特注の乳歯入れ歯を作って、それを常に着けて年齢を感じさせる歯を隠していたのだと思います。
ただ歯医者に行くこともできず、常に正体を隠して入れ歯・自前の歯のケアもままならなかったために、入れ歯も歯も黒くボロボロになっていたのではないかな。
年齢をごまかす化粧
ラストで派手な化粧を落とした後の老けた顔こそエスターの本当の顔で、普段は子供に見せるための化粧をしていたのだと思います。
シワ・くま・くすみはカバーしつつ、そばかすを描いて子供っぽさを出しつつシミや肌のアラをごまかしたりとバレない化粧を研究して子供顔を演出していたのでしょう。
元々の子供顔を活かして舞台用に近い化粧品で化粧して、さらに人とある一定の距離を保つことで本来の顔を隠して子供であるようにみせていたのだと思います。
ただ朝から晩までずっと化粧して、スキンケアもままならなかったために肌は年齢以上にボロボロになっていたのではないかな。
膨らむ胸を隠すさらし
おそらくは少しだけ膨らんでいた胸は、サラシを巻くことで抑え込んでいたのだと思います。
年齢的に胸の膨らみがあってもおかしくはないのですが、エスターのイメージ的に胸があるのは子供らしくないとブラを付けることもなく隠していたのでしょう。
さらにもしかしたらシワ・垂れといった年齢的なものが胸にも出始めていたため、それをごまかす意味合いもあってサラシを巻いていたのではないかなと思います。
あと脱いだ時にベージュ色のインナーが見えたことを思うと、胸と同じく垂れてきたお尻をカバーするために矯正下着も身につけていたのではないかな。
子供らしさを強調する服
子供らしいフリフリとした服も、子供らしさをより強調して雰囲気からも子供っぽく見せるために着ていたのだと思います。
あの服を着れば大体の人が顔よりも服に目が行きますし、近寄りがたくすることで顔をじっくりと見られないようにしていたのでしょう。
ただ子供らしさを強調するために着られる服はフリフリフェミニン一択…着たい服も着れず、本人もフラストレーションを溜めていたのではないかな。
そして歯・顔・身体・服と全てに子供らしく見せる工夫を凝らしているために、お風呂に入る時は鍵をかけて絶対に誰にも見られないようにしていたのだと思います。
コールマン一家のその後
父親・ジョン以外は一応生存していますが、それぞれが精神的にも肉体的もダメージを受けていて助かっていたとしてもハッピーエンドとは言い切れないと思います。
息子・ダニエル
ダニエルはツリーハウスから転落し大怪我、搬送された病院で枕を押し付けられて心停止にまで追い詰められましたが、その後蘇生したので一応無事ではあります。
ただ歳の近い少女に追い詰められた恐怖、その少女が実は遥か年上だったという事実、その女によって父親を奪われ母親・妹までも襲われるという悲しみ。
これだけ揃っていると、精神的なダメージから女性や他人への恐怖・トラウマを抱えてもおかしくはないですよね。
さらにツリーハウスから転落した時に首にダメージを負っているし、酸欠で心停止したことを思うと肉体的にも何がしかの後遺症が残っている可能性は高いと思います。
母親・ケイト
ケイトも生存してはいますが悪魔のような女に家族が襲われ愛していた夫を失い、子供を失いかけた経験はその後の人生に影を落とすのではないかなと思います。
ケイトは子供を失った時に依存症になった過去がありますし、同じ依存症にならないにしても別の依存症・病気になる可能性は十分にありそうですね。
また何度かエスターにナイフで刺されていますし頭は打ってるしで、脳や内臓系にダメージを負って倒れてしまったり肉体に後遺症が残る可能性もあるように思います。
娘・マックス
マックスも生存していますがシスター・父親が命を落とす瞬間を目撃していますし、犯行にも協力されられていたことが心のキズになっている可能性が高いと思います。
さらにラストではエスターに向かって撃っていますし…当たらなかったとはいえ撃った事実が、幼い心に引っかかって何がしかのトラウマに繋がりそうですね。
なので父親以外は生存こそしているものの、エスターから受けた精神的・肉体的キズをずっと引きずって生きていくというバッドエンドだったのではないかなと思います。
エスターが首・手首を隠せた理由
エスターがリボンだけで精神病院での拘束跡を隠し通せていたのは、悲しいトラウマを持つ子供のフリをして触らせなかったためではないかなと思います。
入所時は「親にやられた」「誰にも見られたくない」ということで誤魔化せますし、他の人間にもそのように申し送りされることで触れられることはなかったのでしょう。
もし触られそうになっても悲しい過去を思い出した子供らしく絶叫・抵抗することで、触れてはいけないものという印象を周知させていったのだと思います。
孤児院や大人数の集まる施設では隠したい物・トラウマ・それぞれの事情があるのは珍しいことではなかったでしょうから、それで良しとされていたのでしょう。
ただもしかしたらエスターにとって、あのキズは本当に触れられたくないトラウマになっていたのかもしれませんね。
精神病院で縛り付けられ、ずっと跡が残るほどの傷跡が残るってことはかなりの長期間縛られ続け、抵抗し続けていたということでしょう。
そのトラウマからもしかしたら紐状のものが首・手首にないと落ち着かない、でも触られると押さえつけられる恐怖が蘇るという状態になっていたのではないかな。
だからこそ演技だと疑われることもなく、誰も触れることがなかったのではないでしょうか。
なので首・手首のキズを隠し通せていたのは悲しい過去を持つ子供のフリをしていたからですが、実はエスターにとって本当にトラウマだったではないかなと思います。
トイレでエスターが暴れた理由
カウンセラーとの話を終えた後に病院のトイレでエスターが暴れていたのは、正体がバレるかもしれない不安とケイトへの怒り・不満からだったと思います。
カウンセラーとはうまく会話して誤魔化せた・バレないとエスター自身も言っていますが、口ではそう言っても不安だったのでしょう。
実はカウンセラーが凄腕でエスターとの会話中は話を合わせ、両親には不審であったと伝えている可能性もある…そして診察室にいないエスターには中の状況が分からない。
だからこそどんどん不安とフラストレーションが溜まっていき、そのストレスがケイトへの怒りにどんどん変わっていったのではないかなと思います。
あの女のせいで!こんな状況に私を追い込みやがって!と怒り狂って、トレイでバタバタと暴れていたのではないかな。
だからこそちょっとした復讐というか報復として、彼女が大切にしていた愛娘のバラを摘み取ってプレゼントしていたのでしょう。
なので病院のトイレでエスターが暴れていたのは正体がバレる不安からだけでなく、自分をその状況に追い込んだケイトへの怒りもあってのことだったと思います。
エスターのステーキの食べ方
エスターがステーキを全てカットしてから食べようとしていたのは、彼女の中ではそれが子供らしい食べ方だったからではないかなと思います。
入れ歯で小さくしなければ食べにくかったのであれば、少しずつカットして食べれば良いのに…エスターは全てカットしてから食べようとしていました。
これは年齢や環境にもよるのかもしれませんが、子供がハンバーグやステーキを食べる時は食べやすいサイズに全部カットしてから食べるイメージが強いんですよね。
マナー的には良くないことを知りながら、子供のステーキの食べ方がそういうイメージだったためにエスターは全てをカットしてから食べようとしていたのだと思います。
しかし現代っ子+お坊ちゃまであるダニエルにとってそれはマナー違反のおかしい食べ方だったから、おかしいと指摘していたのでしょう。
その後の早口で上から目線のセリフを思うと、子供にマナーを指摘されたこと・ステーキを食べ慣れているダニエルにエスターは少しイラッとしたのでしょうね。
そのことからもエスターは好き好んでステーキを全てカットして食べているのではなく、子供らしさを演出するためにその食べ方をしていたのだと思います。
壁の絵の意味
部屋の壁にびっしりと描かれていた絵は、エスターがストレス発散のために描いていた彼女の願望を表した絵だったのだと思います。
ブラックライトで浮かび上がる絵
壁いっぱいにある子供らしい平和な絵や普通の風景の上に、ブラックライトで浮かび上がる蛍光塗料で描かれた絵は暴力的・精神的な欲求を表していたのでしょう。
エスターが絵を見る時にブラックライトをカチカチとON/OFFを繰り返して見ていたことを思うと、彼女は幸せが崩れ去る瞬間が好きだったのではないかな。
ただの幸せな絵でも残酷な絵でもダメ…幸せな絵が一瞬で崩れ去り、残酷にも不幸になっていくその瞬間が好きだったのだと思います。
だからこそわざわざ平和な絵を飾った増えにそれが崩れるイラストを蛍光塗料で描き、ブラックライトで崩れ去る瞬間を何度も楽しめるようにしていたのでしょうね。
男女の絵
その下に隠された絡み合う男女の絵は、おそらく自分が大人の女性の身体だったらをイメージして描いた、ぶつけようのない不満と欲求が詰まった絵だったのでしょう。
隠しやすい紙ではなくわざわざ壁に描き、他の絵の下に隠していたことを思うとあれこそがエスターが心の奥底に隠していた本当の願望だったのではないかなと思います。
他の女のように大人の女性の身体になりたい・恋がしたい・肉体的なつながりが欲しいと願っていたのではないかな。
でも現実世界ではその願いは叶わないからこそ、他の女の幸せを奪おうと男を寝取ろうとしたり他の家族を襲ったりしていたのではないかなと思います。
エスターはただ残酷なだけではなく崩れる瞬間を見るのが好きだからこそ、自分の叶わない願望を暴力欲求の方に上乗せさせてストレス発散していたのではないかな。
なので壁の絵にはエスターのストレス発散であるとともに、彼女の深層心理のようなものが映し出されていたのではないかなと思います。
聖書をずっと持っていた理由
自分の正体に繋がりかねない精神病院の聖書をずっと持ち歩いていたのは、あれが彼女にとって本物の自分を忘れずにいられるお守りのようなだったからだと思います。
そもそもエスタがー食事の時に祈りを捧げていたこと、精神病院に入所していた頃から聖書を持っていたことを思うとキリスト教信者ではあったのでしょう。
キリスト教の教え・聖書があったからこそ、長い狂気の中でも自分を見失わずに知性・意思を持ち続けることができていたのだと思います。
そしてエスターは精神病院を脱走する時、また子供のフリをして生きていく不安から自分が自分である証・正気でいるためのお守りとして聖書を持ち出したのでしょう。
大人が子供のフリを続け、自分とは違う名前を名乗り、色々な地を転々として警察や病院から逃げ惑うというのは精神崩壊のリスクがあるものなのだと思います。
そんな中でも自分を見失わずに完璧な犯罪を繰り返し、自分の欲望を満たしていくためには自分を思い出せるお守りが必要だったのでしょう。
そしてその聖書に過去に自分が手にかけた男たちの写真を挟み、自分の恋・罪も忘れないようにしていたのだと思います。
懺悔とか未練とかではなく、自分の恋・罪も自分が自分であった証拠だからこそ、ずっと忘れないように連れて行く…という感覚の方が近いですね。
なのでリスクのある精神病院の聖書をずっと持ち歩いていたのは、子供のフリをし続けるエスターが自分を見失わないようにするためのお守りだったからだと思います。
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まとめ
少女が悪霊にとりつかれた系のホラー映画かと思いきや、とにかく人間の闇が見えるサスペンス・イヤミス系の映画で面白かったです!
ただ鳩が子供の悪ふざけで撃たれるし、なかなかに残酷な亡くなり方をしているので今後好んで観ることはなさそうですね。
どちらかといえば狂気の中に悲しみを持つ悪役がお好きな方、子供と大人を併せ持つ真っ直ぐに歪んだ狂気がお好きな方におすすめな映画でした!