正義を追い求める2人の検察官を描いた映画『検察側の罪人』。
かなりハイテンポに進む映画なので観やすく、狂気も感じる映画ではあるのですが…個人的にはあまり好きな映画ではありませんでしたね。
ストーリーの設定自体は面白いと思うので…どちらかといえばなかなか好みのサスペンス映画が見つからないという方や、独特な世界観がお好きな方におすすめ!
映画『検察側の罪人』の作品情報
あらすじ
刑事部に配属されたばかりの駆け出し検事・沖野啓一郎。
学生時代から尊敬している東京地検のエリート検事・最上毅と共に、都内で発生した容疑者不明の事件を担当することになります。
口を割らない証人に苦戦する初仕事でしたが、憧れの検事に負けないようにと胸を躍らせながら仕事に励む沖野。
一方、最上は闇献金疑惑をかけられていて逮捕間近の旧友・丹野和樹に会った後、不仲な家族がいる自宅で休まらない時を過ごしていました。
そんな2人の担当事件の容疑者の名がついに挙がったのですが、それは最上の高校時代の友人・ユキの事件でも容疑者だった男・松倉重生の名で…。
予告動画
動画リンク
映画『検察側の罪人』の感想
【面白ポイント】
- ハイテンポにストーリーが進む
- なかなかの狂いっぷり
- 映像のインパクトが強い
ハイテンポにストーリーが進む
ストーリーはぽんぽん展開していくしキャラクターが基本的に早口でまくし立ててくるので、全体的にかなりハイテンポに進む映画でしたね。
基本的にはキャラクターたちのセリフをメインにストーリー・説明を進めていくタイプの映画なので文字数が多いのですが…なんか1.25~1.5倍速かな?というくらい早口。
ぶわっと情報を一気に詰め込んできて、詰め込んだと思ったらすぐに次の展開に移っていくので、スローテンポな映画が苦手な方にはめちゃくちゃ向いていると思います。
普段から1.5倍速で映画を観ている方だと、このくらいがちょうど良いくらいに感じるのではないかなというくらいハイテンポです。
反面、やはり早口でまくしたてられるので言葉が右から左にそのまま流れていくような…事件の概要やストーリーがイマイチ頭に入ってこない感覚がありました。
「ん?ん?何事?」と思っている時にはもう次のストーリーが展開していて、1つ前の展開に追いつけないまま、気付いたらエンディングを迎えていた…みたいな。
なのでどちらかといえばハイテンポな映画がお好きな方、スローテンポなサスペンス映画が苦手な方におすすめな映画でした!
なかなかの狂いっぷり
検察側の人間が己の正義を振りかざして戦っているのですが、容疑者と同じくらい全員狂っているという…なかなかの狂いっぷりでしたね。
なんというか容疑者がサイコホラー系の狂い方ではなく、ただ気分が悪くなるというか良く言えばリアル・悪く言うと不快感のあるくらいの狂いっぷりでした。
そして検察側の人間の狂い方は、どちらかといえば情緒不安定な感じ…観ている方も精神が不安定になるような狂い方でしたね。
人間の狂気を感じるサイコホラーというよりも、不快感・不安を感じるような狂い方でした。
映画としてはリアリティーがあって良かったのかもしれませんが、私が女性ということもあってか正直観ていて気分の良いものではありませんでしたね。
私はどちらかといえば映画『シャイニング』のような怖い・スゴイ系の狂気が好きなので…今作の狂い方は正直あまり好みではありませんでした。
ただ逆に考えれば『シャイニング』系の狂い方が苦手だった・好きじゃなかったという方は、今作の狂い方は好きなのではないかなと思います。
なのでサイコホラーは好きだけど『シャイニング』系のスゴイ・怖い系のサイコホラー映画はお好きではない方、情緒不安定な狂い方がお好きな方におすすめな映画ですね。
映像のインパクトが強い
今作は独特な世界観を作り出す映像のインパクトがすごかったですね…。
下町の飲み屋と豪華なレストラン、古びた街並みと豪華な街並み、光の入る明るい広々とした部屋と薄暗さを感じる狭い部屋、広い空間の端に寄せ集められた事務用品など。
何というか相反するものが同じ空間にあるみたいな映像が、沖野と最上を表しているようで印象的でした。
オープニング映像も反射した街並みみたいな独特な映像でしたし、映像にこだわりがある映画だったのかもしれませんね。
ただ…正直、独特過ぎてついていけないと感じるシーンもありました。
「え?ギャグ?」と感じるくらいシリアスな空気感をぶち壊す独特な映像もあって…そのシーンはもう話が全く頭に入ってこなかったですね。
独特な映像は良いと思うのですが…個人的には世界観についていけなかったので、好みは分かれるかなと思います。
なのでどちらかといえばインパクトのある独特な映像がお好きな方、映像にこだわりのある映画がお好きな方におすすめな映画でした!
映画『検察側の罪人』の考察
【考察ポイント】
- 運び屋の女性の声
- ラストで沖野が叫んだ理由
- 最上にとっての結末
- 最後に松倉の命を奪った犯人
運び屋の女性の声
諏訪部の相棒らしき運び屋の女性の声がボイスチェンジャーのような独特な声になっていたのは、もしかしたら声を失った過去があるからではないかなと思います。
首に塞がった傷跡のようなものがありましたし、おそらく現在は喉に発声装置のような物を埋め込んでいるのでしょう。
病気かケガなのかは不明ですが声を失った彼女は何とか声を取り戻したいと諏訪部を頼り、日本では認められていないような違法手術で声を取り戻したのではないかな。
そして彼女は声を取り戻してくれた諏訪部に感謝しているからこそ、諏訪部の相棒として危険な仕事も請け負っているのではないかなと思います。
ラストで沖野が叫んだ理由
ラストで沖野が最上の別荘を出た後叫んでいたのはずっと最上の正義を信じて検事として戦ってきたのに、それを失ったことに対するやり切れなさと葛藤からだと思います。
沖野にとって最上は検事の心得を教えてくれた憧れの人で、彼の意思を受け継ぐんだと思いながら検事として戦ってきたのに…それが崩れ去ってしまった。
あんなにも正義を語っていたのに、自分自身が語っていた通りの犯罪者に落ちていってしまって…それでもなお自分の正義を語り続ける最上に強い矛盾を感じたのでしょう。
その矛盾に悲しみ、あの人を信じていた自分は何なのかというやり切れなさ、これからの正義についての葛藤みたいなものが叫びとして現れたのではないかなと思います。
最上にとっての結末
最上がハーモニカ片手に別荘を去る沖野を見下ろすシーンには、最上が祖父の反戦精神を引き継ぐという意味が込められていたのではないかなと思います。
別荘の2階に、祖父はこれのおかげで生き延びたと話していた『御宿タナン』の看板がありましたし…。
あの別荘は最上にとっての御宿タナンで、戦い終わった者が生き永らえるために傷を癒しながら、また違った戦いに向かう場所みたいな意味合いがあったのではないかな。
祖父が御宿タナンのおかげで生き延び、戦後、反戦の意思を込めた書籍をあの別荘で書いて出版したように最上もあの別荘で次の戦いに備えていたのだと思います。
さらに祖父のハーモニカを手にすることで、祖父の意思も引き継いでいくことを決意していたのではないでしょうか。
自分の正義に従って書籍を出版した祖父のように、最上も自分の正義に従って丹野の残した証拠を使って戦おうと決めたのではないかなと思います。
最後に松倉の命を奪った犯人
ブレーキとアクセルを踏み間違えた老人と運び屋の女性は共犯者で、最上の協力者・諏訪部の指示で松倉の命を奪ったのではないかなと思います。
運び屋の女性は松倉を轢いた後の着地点を用意しつつ、轢いた後にすぐさま生きているかどうか確認するためにあの場で待機。
老人はアクセルとブレーキを踏み間違えたフリをして情状酌量を狙いつつ、松倉を亡き者にするために諏訪部が雇った協力者でしょう。
最上の指示に従っていた諏訪部が最後になって最上の言葉を無視して松倉を亡き者にしたのは、最上の思い描くストーリーの結末を見るためかな。
最上は松倉に復讐するチャンスを失い、放心状態…小説家に例えるのであれば、連載途中の作品を投げだしてずっと休載しているような状態ですよね。
そんな最上のファンである諏訪部は休載のまま打ち切りになるよりかは、出来合いの作品でも良いから結末を見たいと手を下したのではないかなと思います。
最上の友人が依頼人説
もしくは最上とは別ルート、例えば最上の友人・前川あたりから松倉を亡き者にしてほしいという依頼が入っていたのかもしれませんね。
前川も最上ほどではありませんがユキの事件を覚えて気にしているような素振りがあったので、もしかしたらユキに好意を抱いていて松倉のことを恨んでいたのかも。
だから松倉が無罪になることを許せず諏訪部に依頼したのではないでしょうか。
そんな依頼があったからこそ、最上の協力者である諏訪部は「このままだと先越されるぞ!あんたが先にやれ」と遠回しにせっついていたのかもしれませんね。
しかし最上に行動を起こす兆しが感じられなかったため、致し方なく前川の依頼を優先して松倉を亡き者にしたのではないかなと思います。
映画『検察側の罪人』の関連作品
映画のハイテンポが気になった方には、ゆっくり読める小説版がおすすめです。
まとめ
ストーリー設定は面白いのですが個人的に好みではない部分が多く、イマイチ理解しきれていないまま終わってしまった映画でした。
うーん…悪くはないと思うのですが、残念ながら全体的に私には合わなかったようです。
どちらかといえば独特な世界観やハイテンポなストーリー展開がお好きな方、映画『シャイニング』とは違った方向性の狂気がお好きな方におすすめな映画でした!