ナチス・ドイツの時代に多くのユダヤ人を救った男性を描いた映画『シンドラーのリスト』。
戦争系の映画ということで観るのを躊躇していたのですが、悲惨な歴史を感じさせながらも1つの作品としてちゃんと楽しめる様な映画になっていて良かったです!
残酷な歴史を描いた映画、白黒映像の魅力が詰まった映画をお求めの方におすすめしたい映画になっています。
映画『シンドラーのリスト』の作品情報
あらすじ
ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害が行われていた時代。
世渡り上手なドイツ人のオスカー・シンドラーは、戦時中であることを利用して『軍向けの鍋』をつくる工場を立ち上げようと計画します。
そのために軍人との関わりをつくりながらご機嫌をとって軍とのパイプをつくり、工場経営のために必要な人材を集め始めました。
経営には元経理士のユダヤ人。
仕入れには裏営業をしているユダヤ人。
従業員には収容所に入りそうな多くのユダヤ人。
本来であれば商売に関わることが許されていないユダヤ人を、シンドラーは給料が安く済むからという理由で工場で雇いました。
そんな商魂たくましい男が、1,100人以上ものユダヤ人の命を救った男と呼ばれるまでに変化していくのでしたが…。
動画リンク
映画『シンドラーのリスト』の感想
【面白ポイント】
- 怖い・惨い・理不尽が詰まったストーリー
- 白黒であることが活かされている映像
- 長いけど飽きさせない展開
怖い・惨い・理不尽が詰まったストーリー
戦時をテーマにした映画、ユダヤ人迫害が行われている時代ということからも分かる通り、正直、観ていて気分の良い映画ではありませんでしたね…。
女と金にだらしなく、笑いながらユダヤ人を迫害する軍人たち。
同じ人間にすることとは思えない悪逆非道の数々。
些細な理由で…時には理由すらなく命を奪われるユダヤ人たち。
正しいことをしても大人しくしていても、何もしなくても…軍人の気分1つで簡単に命が奪われていく様は、惨いとしか言いようがありませんでした。
特に印象的だったのが、そんな迫害を見て子供たちまでもがユダヤ人を迫害し始めるシーン。
可愛い笑顔に伴わない行動、可愛い口から出てきてほしくない言葉の数々が…戦争・迫害の怖さや歪み、理不尽さみたいなものを分かりやすく表していたと思います。
これが創作ではなく、実際に過去行われていたことですからね…。
観れば観るほど悲惨で、惨さに悲鳴が出る様な映画だったなと思います。
なので今作はそういった人の悪意が詰まった映画が苦手な方、理不尽によって人の命が奪われていく映画が苦手な方にはおすすめしない映画です。
ただこういった理不尽な迫害・人の悪意というのは現代にも通じるものがあるので、惨いと思うだけではなく、考えさせられる部分もしっかりとあるような映画でしたね。
白黒であることが活かされている映像
最初は白黒映像であることに驚きましたが、あえての白黒映像がシリアスな空気感を強めているように感じられて、演出の1つとしてとても良かったと思います。
白黒映像なことによって時代も感じられますし、影がより色濃く、光のない暗い世界であることが視覚からも分かるようになっていて良かったです。
重いストーリー・世界観とも合っていましたしね。
そして…そこからラストでカラーに変化するシーン!
暗い世界に光が差した感じ、彩りが生まれていることがまた視覚から分かりやすく伝わってきて、映像からもエンディングを盛り上げていましたね!
白黒映画には少し苦手意識を持っていたのですが、白黒映像であることがここまで活かされているのはすごい。今作で白黒映画に対するイメージが変わりました。
また白黒映像といっても画質が粗いとか、細部が分かりにくいということはなかったので、白黒映画が苦手という方でも観やすくなっていたと思います。
なので白黒映像だからと…と観るのをためらっている方にも、ぜひともチェックしてみていただきたいです!
長いけど飽きさせない展開
再生時間が3時間以上とかなり長めの映画ではあるのですが、適度に盛り上がり・区切りが訪れてくれるので飽きることなく見続けることが出来ました。
今作は1時間おきにエンディングのような『区切り』が訪れて、そこからまた盛り上がりつつ次の区切りに向かっていくような…波状のストーリー展開になっています。
日常からどん底に落とされて、這い上がったと思ったらまたどん底まで落とされてを繰り返すので、飽きるどころか心の休まる暇がない!
なので長めの映画が苦手という方でも、比較的観やすい映画になっていたのではないかなと思います。
ただどんどん暗い方向に向かっていくストーリー展開に合わせて気持ちもどんどん沈んでいくので、そういったのが苦手な方には注意が必要ですね。
映画『愛を読むひと』と時代背景が近く、合わせて読むとさらに深く楽しめるので興味のある方はぜひこちらもチェックしてみてください!
映画『シンドラーのリスト』の考察
【考察ポイント】
- タイトルの意味
- シンドラーがユダヤ人を救う理由
- アーモン所長が少年に言った「許す」の意味
- 隠れ場所から他人を追い出そうとする理由
- 最後にシンドラーの着る服を広げる女性
- 赤い服の少女の意味
- メイド・ヘレンに対するアーモン所長の言動
タイトルの意味
シンドラーが救ったユダヤ人の名前が書かれたリストのことですが、これにはシンドラーを救ったユダヤ人のリストという意味もあるのではないかなと思います。
本来であれば収容所に入れられ、強制労働をさせられ、軍人の気まぐれで命を奪われる危険性があったユダヤ人を、シンドラーは私財を投げうって助け出しました。
命だけではなく彼らの信仰や自由、人間としての尊厳すらも。
なのでユダヤ人にとってシンドラーは恩人なのでしょうが、個人的にはシンドラーにとってもユダヤ人は恩人だったのではないかなと思います。
人間が人間を迫害する・命が軽いものとして扱われる戦時中に、シンドラーはユダヤ人たちと関わったことによって普通の人間らしい感情を保つことが出来ました。
さらに1人の人間として彼らを救いたい、出来る限りのことを…と尽力したことで、シンドラーの無実を証明するためにユダヤ人たちが署名をしてくれます。
それがなければ、シンドラーもただの犯罪者としてアーモンのように裁かれていたかもしれませんからね。
なので『シンドラーのリスト』というタイトルにはシンドラーが救ったユダヤ人、シンドラーを救ったユダヤ人という2つの意味があるのではないかなと思います。
シンドラーがユダヤ人を救う理由
シンドラーは金儲けばかりを考える人間ではありますが、本来は仕事仲間に対しては優しく責任感に溢れ、縁を大切にする情に厚い人間だったからではないかなと思います。
最初はシンドラーも迫害によって人間扱いされていない立場にあるユダヤ人を、金儲けのためだけに雇用していましたが…。
共に働く内にドイツ人とユダヤ人ではなく人間と人間、優秀な仕事仲間として関わるようになったのではないでしょうか。
シンドラーはあんなアーモン所長のことすらも悪く言わないようにしている部分がありましたし、仕事仲間に対しては元々義理堅い人間だったのではないかなと思います。
だからこそユダヤ人を救いたいというよりも、最初は仕事仲間を救いたい・守りたいという想いから必死に行動していたのではないでしょうか。
それがだんだん仕事仲間だけではなく自分と縁のある人を救いたいと思うようになり、結果として多くのユダヤ人を救うことに繋がったのではないかなと思います。
アーモンが少年に言った「許す」の意味
バスタブ掃除に苦戦していた少年に対して「許す」と言いながらもアーモンが少年の命を奪ったのは、少年の命を奪う自分を許したからだと思います。
シンドラーに諭されて一時期は人々の失敗を許していたアーモンでしたが、ゲーム感覚で人々の命を奪っていたアーモンにとってはそれがストレスとなっていたのでしょう。
許すことというよりも…引き金を引けないことに対してですね。
許すと言い出した辺りからずっと指先をイジイジしていたので、おそらく「引き金を引きたい」とずっと指がうずいていたのでしょう。
でも許すことも大切だし…と苦悩した結果、鏡を見て自分に対して「許す」ということで、引き金を引く自分のことも許したのではないかなと思います。
だからこそ「許す」と言った少年の命を奪いました。
アーモンにとって「バスタブ掃除が不十分なことを許す」ことも、「引き金を引く自分を許す」ことも同等だったのでしょう。
でも命は奪わないようにと最初はあえて外していたようですが、最終的には我慢できずに少年を狙って引き金を引きます…。
でもアーモン所長はそんな自分すらも許したことでしょうね。
どんなことも許すことが、器の大きい人間だと認識しているでしょうから。
隠れ場所から他人を追い出そうとする理由
トイレ・床下などに隠れている人々が、スペースがあるにも関わらずそこに隠れようとやってきた人を拒否するのは、自分にとって大切な人を守るためだと思います。
人数が増えれば増えるほど、息遣い・物音・些細な要因から発見されるリスクが増すので、見つかる確率を出来る限り減らすためにも少人数で隠れたいのでしょう。
さらに自分の大切な人のために見つかるのならばまだしも、どうでもいい奴と一緒に隠れたために見つかりたくないという想いもあるのかもしれませんね。
だからこそ床下に隠れていた母親は友人の子供は自分の子供のために引き取っても、友人である母親の方は拒否。
トイレに隠れていた子供たちは自分の友達は良くて、新しくやってきた少年は追い出そうとしたのでしょう。
どんなに懇意にしていた人だったとしても、人によって守りたい大切なものは異なりますからね。
窮地で大切な人を守るためには致し方ない選択だと思います。
最後にシンドラーの着る服を広げる女性
ユダヤ人たちがシンドラーに駆け寄る中、シンドラーの着るシマシマ服のシャツを広げている女性がいましたが…あれには2つの意味が考えられます。
1つは社長であるシンドラーに服を着せるため、シャツを広げてすぐに袖を通せるようにという感謝を込めた気遣いと敬意の現れによる行動。
もう1つは「ドイツ人は早くどこかへ行け!」という…根深い迫害の歴史によって傷ついたユダヤ人の心理を表した嫌悪による行動。
シンドラーは確かに命の恩人かもしれませんが、だからといってドイツ人がユダヤ人に対して行ってきた迫害は許されるべきことではありませんし…。
もしかしたら「私を救って、なぜ私の大切な人は救ってくれなかった!」という、憎しみの感情を持っている人もいるかもしれませんからね。
その証拠に泣き崩れるシンドラーに駆け寄るユダヤ人もいましたが、まったく動かないユダヤ人も多くいました。
なので個人的には1の意味であってほしいとは思いますが、2の可能性もなくはないのかなと思います。
赤い服の少女の意味
血すらも黒く映る白黒の世界で1人だけ赤い服に身を纏う少女は、シンドラーに普通の人間らしい感情があることを意味していたのではないかなと思う。
数多くの命が奪われる世界で真っ赤なコートに身を包み、喧騒を気にする素振りもなくテコテコと歩いていく少女はシンドラーの目に留まりやすかったことでしょう。
知り合いでもない、ただふっと見かけただけの少女。
でもシンドラーは視線を奪った彼女がその喧騒の中を生き残ることを、無垢な少女が無事でいることを…すごく人間らしいことを願っていたんじゃないかな。
遠くにいる人を助けることはできないけど見かけたのも何かの縁…願わくば無事で…と。
しかしシンドラーの願いも空しく…少女は戦火によって命を奪われてしまいました。
シンドラーは自分が手を伸ばしていれば救えたかもしれないのに、彼女を見ていたはずなのに…と後悔したのではないでしょうか。
そうでなくても、誰だって自分と少しでも縁のあった人間の命が奪われていくのはイヤでしょう。
そんな赤い服の少女のことがあったからこそ、シンドラーは「両親を雇ってほしい」という女性の頼みを聞いたり、シンドラーのリストをつくるに至ったのだと思います。
赤い服の少女はシンドラーに普通の人間らしい感情があること。
自分と縁のある人に無事であってほしい、自分のせいで人の命が失われて行ってほしくないという普通の人間らしい想いがあることを表していたのだと思います。
メイド・ヘレンに対するアーモンの言動
メイド・ヘレンに対して恋心を抱きながらも攻撃的な態度を取るアーモンの言動は、ユダヤ人迫害による歪みや闇を意味していたのではないかなと思います。
同じ人間としてヘレンに女性的な魅力を感じながらも、軍人として「ユダヤ人は人間ではない」という政策のもと攻撃的な態度を取るアーモン。
おそらくアーモンの中で人間としての部分と、軍人としての部分で矛盾や歪みが生まれてしまったのでしょう。
だから彼女に惹かれながらも攻撃的な態度を取り、しかしそんな状態でも彼女を手元に置いておこうとしたのだと思います。
しかし最終的にシンドラーの賭けにのり彼女のことを手放したことを思うと、アーモンにとっては人間としての恋心よりも軍人としてのがめつさの方が強かったのでしょう。
軍人の部分の方が強かったというのは、それだけ戦争中の人々の心理状態が普通ではないこと、政策による洗脳のようなものの強さを表しているのかなと思います。
これがもし軍人としての部分よりも人間らしい恋心の方が上回っていれば、アーモンもシンドラーと同じようにユダヤ人を救う側の人間になっていたのかもしれませんね。
映画『シンドラーのリスト』の関連作品
近いテーマ性・やるせなさを感じる映画なので、興味のある方はぜひ。
まとめ
戦争・ユダヤ人迫害をテーマにした映画ということで観ていて辛くなるようなストーリー・映像ではありましたが、考えさせられる部分も多い映画になっていましたね。
現代にも通じる部分は多いと思うので、残酷な歴史・白黒映画がお好きな方だけではなく、少しでも興味のある方にはぜひともチェックしてみていただきたいです。
ただかなり惨いので…無理はしないことをおすすめいたします。