年老いた男と若い女性の恋模様を描いた映画『鑑定士と顔のない依頼人』。
謎めいた依頼人に迫るミステリー感から惹きつけられる年の差純愛ストーリーまである、最初から最後まで魅力がギュギュッと詰まった映画でとても面白かったです!
どちらかといえば困難の多い年の差恋愛ストーリーがお好きな方、人間のドロドロした部分が詰まりつつもキラキラもしているような映画がお好きな方におすすめ!
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の作品情報
あらすじ
世界中の美術品を仕切る一流のオークショニア、ヴァージル・オールドマン。
身だしなみを整えて一流の美術品をオークションで売りさばきながら、相棒・ビリーと組んで高額な美術品を安値で買い叩き、自分だけのコレクションを増やしていました。
誰もいない豪邸で1人で静かに過ごし、秘密の部屋で絵画コレクションを眺め、誕生日に祝う人もいない孤独な日々。
そんなある日、亡き両親が残した家具や絵画を査定してほしいという依頼が舞い込みます。
しかし会う約束をしても屋敷内にいるはずの依頼人の女性は姿を見せず、管理人が立ち会うばかり…その管理人も依頼人のことはよく知らないと言う明らかに怪しい依頼。
最初は乗り気じゃなかったヴァージルですが、屋敷内で拾ったとあるパーツに心惹かれ彼女の査定依頼を引き受けることに…。
予告動画
動画リンク
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の感想
【面白ポイント】
- 謎めいた依頼人
- 年の差純愛ストーリー
- ツラすぎるどんでん返し
謎めいた依頼人
映画前半の謎めいた依頼人のミステリアス感はホラー・SF・恋愛の全ての可能性を残しているような演出の仕方で、めちゃくちゃ引き込まれるものがありました。
面識がないのにどうしてもヴァージルに査定してほしいという強い想い、電話では話すし屋敷にはいるはずなのに姿は見せない頑なさ、天涯孤独で全くの正体不明。
何もわからないからこそすでに亡くなっている幽霊なのか、はたまたオートマタなのか人間なのか、色々な可能性を考えながら観られる謎めいた依頼人像で面白かったです!
また謎めいてはいるんだけど、最終的にはちゃんと種明かしされる点も非常に良かったですね。
前半は謎めいていて、後半やラストでちゃんと謎明かしされることでモヤモヤすることなく、スッキリと面白かった!と思えるようなストーリー展開で良かったです。
印象としてはマンガ『鎌倉ものがたり』『ブラック・ジャック』とかに似ていましたね。
生きているのか亡くなっているのかすら分からない謎めいた依頼人と、首を突っ込みがちなお人好し主人公という組み合わせがすごく良く似ていました。
なのでどちらかといえば謎めいた依頼人×お人好し主人公の組み合わせがお好きな方、自分であれこれ可能性を考えながら楽しめる映画がお好きな方におすすめな映画です!
年の差純愛ストーリー
女性と目も合わせられないほど初で潔癖症な年老いた男性と、家から出ることができない広場恐怖症の女性との声から始まる年の差恋愛にはドキドキさせられました。
顔も知らない者同士、お互いがお互いを警戒している状態から少しずつ惹かれていき、心を開いて深い会話をして、顔を合わすようになる…。
なんというか両者ともかなり自分勝手で不器用なところも多いけれど、特殊な恋模様がどんな形で落ち着くのか…結末がめちゃくちゃ気になる恋模様で面白かったです!
印象としては映画『愛を読むひと』に似ていましたね。
知られたくない女性と知りたい男性のすれ違い、自分勝手で不器用な2人による難しい恋模様、そして2人の間にそびえ立つ大きすぎる壁がよく似ていたかなと思います。
なのでどちらかといえば愛を読むひとがお好きな方、困難の多い不器用な恋模様がお好きな方におすすめな映画でした!
ツラすぎるどんでん返し
愛した女性・信頼していた友人・自分を理解してくれていた相棒・生涯をかけて集めたコレクション…全てを失うラストのどんでん返しは辛かったですね。
怒りよりも悲しみ、お金を奪われるよりも悲しい喪失感、人を信じた瞬間に裏切られる衝撃と疑問。
いやぁ…映画途中でこの展開になるならまだしも、もうラストもラスト、完全にハッピーエンドを確信した瞬間にどんでん返しするので衝撃がすごかったです。
事態を理解できずに状況を眺めて驚愕…からの理解・悲しみ・絶望がぶわって襲ってきて、めちゃくちゃツラかったですね。
いや、ストーリー自体はミステリー・恋愛・どんでん返しと面白い要素が詰め込まれていて、めちゃくちゃ面白かったです。
ただなんというかもう、あんまりだと言うしかない…あまりにも不憫なヴァージルが可哀相でならなかったですね。それくらいツライ。
特に個人的に好きな恋模様だったせいか、心にズンッとのしかかってくるものがあって…良い意味ですごくショックでした。
なのでどちらかといえば人間の醜悪さ・絶望が詰まったドロドロとした映画がお好きな方、どんでん返しのある映画がお好きな方におすすめな映画です!
逆に人間不信になるような映画が苦手な方、ドロドロとした恋愛映画が苦手な方は視聴の際には注意が必要かもしれませんね。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の考察
【考察ポイント】
- ヴァージルが袋叩きにあった理由
- クレアの真意
- ロバートの真意
- ラストでナイト&デイにいた意味
- 犯人・ビリーの犯行動機
- オートマタの正体
ヴァージルが袋叩きにあった理由
ヴァージルが袋叩きにあったのは彼と仲良くするロバートとクレアへの見せしめのためと、計画を早く実行へ移すようにというビリーからの脅しだったのだと思います。
そもそもヴァージルが自宅の豪邸へ入る瞬間を襲われるならまだしも、ボロ屋敷へ入る時に狙いすましたように襲われるのは不自然ですから…。
おそらくロバートに作らせたGPSを車にセットしておいて、ボロ屋敷へ入る瞬間に彼を襲うようにチンピラを雇っていたのだと思います。
ビリーが急にそんな暴力的な作戦に走ったのは、ロバートとクレアが明らかにヴァージルに好意を寄せ、計画に消極的になっていたからでしょうね。
ロバートはクレアへの愛に突き進もうとするヴァージルを止めるような言動をしていたし、クレアもなかなか外に出ようとせず計画が停滞していました。
明らかにヴァージルへ好意を寄せ計画に消極的なロバートとクレアをけしかけ計画を早急に進めるために、ビリーがヴァージルを襲うように計画したのだと思います。
クレアの真意
クレアは最初はビリーの計画のためにヴァージルへ近づいていましたが、関わっていくうちに本当にヴァージルを愛し始めていたのだと思います。
最初はビリーの計画通り、ヴァージルの興味を引くようにミステリアスな引きこもりお嬢様を演じていたのですが…。
おそらく金や高価なプレゼントで気を引くのではなく、花束や自分のために選んだドレス・化粧品、そして寄り添い続ける心に惹かれていくようになったのでしょう。
だからこそビリーの計画を阻止するために、ヴァージルの屋敷に招待されないよう外に出れないフリを続けていたのだと思います。
しかし…ビリーの強行によって外に出ざるをえなくなったクレアは「たとえ何が起きようとあなたを愛している」と、涙ながらに本心をヴァージルに残したのでしょう。
ただ最後の抵抗として、クレアは望みをかけて屋敷売却をやめようと提案しました。
ヴァージルの絵画が奪われるのは止められないけど、せめて屋敷の家具売却は止めてあの屋敷で2人で暮らせれば…と思っていたのではないかなと思います。
売却中止を言い出したとき、ロバートは微妙な顔をしていましたが…屋敷の借り主はビリーではなくロバートでしたから、彼と協力さえできればと考えたのでしょう。
そしてロバートも笑顔で賛成したことで成功と思われましたが…最終的にはビリーの計画通り、クレアは連れ去られるようにヴァージルの前から消えることになります。
クレアの荷物がヴァージルの屋敷に残されていたことを思うと、クレアは愛するヴァージルの元に残ろうと抵抗したのでしょう。しかし抵抗も虚しく連れ去られた。
なのでクレアはヴァージルのことを本当に愛していたからこそ外に出れないフリを続けていたし、屋敷の家具売却をやめようとしていたのだと思います。
ロバートの真意
ロバートもクレア同様、最初はビリーの計画のためにヴァージルに近づいたのでしょうが…だんだん彼のことを本当の友人と思うようになっていたのではないかな。
最初はビリーの計画をスムーズに進行させるために、ヴァージルの背中を押すサポート役を担うはずだったのでしょうが…。
年老いた男とは思えないほど初で真っ直ぐにクレアのことを想い、そして自身のことを信頼してくれるヴァージルのことを本当の友人だと思うようになっていたのでしょう。
だからこそ自分のことを私生活に巻き込むなとサポート役を断ったり、焦らない方が良いとクレアとの外出を止めようとしていたりしたのではないかなと思います。
クレアが失踪した際、オークション中に何度も電話をかけていたのも実はヴァージルのためではないかな。
ヴァージルの誇りであるオークション中に恥をかかせることで、ビリーの復讐心を満足させ、クレアとの関係を見逃させようとしていたのではないかなと思います。
しかしロバートの願いも虚しく、ビリーの計画は進んでしまいました。
だからこそロバートはヴァージルとの共同制作とも言えるオートマタをあえて残して、「会えなくなって寂しい」という心からのメッセージを残したのではないかな。
なのでロバートもヴァージルのことを本当の友人だと思うようになっていたからこそ、彼を止める言動をしたりオートマタを残したりしていたのだと思います。
ラストでナイト&デイにいた意味
全ての真実を知った後でもなお、自身の本物を見極める目と彼らの言葉を信じたヴァージルは、話に聞いたレストランで彼女たちを待つことにしたんだと思います。
おそらく最初はショックのあまり廃人同様になり、病院に入院してリハビリをしていたのでしょうが…次第に落ち着きを取り戻し、彼女たちの言葉を思い出したのでしょう。
贋作を何度も見抜き、本物を見極める目を持っているヴァージルだからこそ、彼女たちの言葉や愛に嘘はなかったと気づいたのではないかな。
ただ急に消えたゆえに行き先も分からず、電話しても出ないし自宅で待てども帰ってこない…だからこそ彼女が話していた思い出のレストランに行くことにしたのでしょう。
『ナイト&デイ』は彼女が1番幸せだったと言っていた場所であり、唯一彼女が話してくれた手がかりだからこそ…わざわざ引っ越してまで通ったのではないかな。
なのでクレアたちの言葉と愛に嘘はなかったと見抜き信じているからこそ、ヴァージルはナイト&デイで彼女たちが来るのを待っているのだと思います。
犯人・ビリーの犯行動機
ビリーはヴァージルが自分の絵を認めなかったこと・酷評したこと・燃やしたこと、そしてちゃんと見ていなかったことに怒り、今回の計画を実行したのだと思います。
そもそもビリーの絵の腕前は、目利きの確かなヴァージルが一流ではないと言ったことを思うと本当に一流ではなかったのでしょうが…二流の腕はあったのではないかな。
有名人にはなれない・博物館に飾られる絵ではないけど…例えば贋作・似顔絵・販売会などを活用し、絵で生活できるくらいの腕前はあったのだと思います。
だからこそヴァージルは彼の描いた踊り子の絵を、秘密の部屋に飾ろうとしていたのでしょう…二流の絵+恋人の大切な絵という神秘性で一流の絵に昇華されたから。
なのにヴァージルはビリーの絵を評価することなく、ただ一流ではないと否定するだけで画家の道を諦めさせていました。
そしてラストでビリーが絵を送ったと言った時に「決して燃やさない」とヴァージルが言っていたことを思うと、彼はビリーの絵を燃やしたことがあったのでしょう。
自分の描いた絵を評価することなく燃やし、可能性があったにも関わらず画家の道を諦めさせた…復讐を決意するには十分な動機だったのだと思います。
ただビリーは踊り子の絵を屋敷に置くことで、ヴァージルに救いの道も用意していたのかもしれませんね。
もしヴァージルが屋敷の絵画を査定した時にビリーの絵だと気づいたらやめよう、ちゃんと友として今までの絵を見ていてくれていたなら気付くはずだと。
しかし気付くことなく、また価値のない絵だと酷評しただけだったからこそ…ビリーは最後まで計画を進める決意をしたのだと思います。
オートマタの正体
おそらくオートマタのパーツは、ヴァージルを屋敷に惹きつけるためにビリーがあえて置いた本物のパーツだったのだと思います。
ヴァージルの友人であるビリーならば、彼がオートマタに興味を寄せていたことも知っていたでしょうし、不自然に置いたほうが興味を持つと分かっていたのでしょう。
そしてオートマタのパーツを置いておけばそれをきっかけに、ロバートとの会話や会う機会を増やす口実にもなりますからね。
ただ…おそらくビリーとしては計画が終わった後は屋敷の家具同様、完成したオートマタも回収するつもりだったのだと思います。
しかし美術品を全て奪い去り、友人も恋人も全て失ってしまうヴァージルのために、ロバートがビリーに内緒でメッセージを残して置いていったのではないかな。
完成したオートマタは本物だからこそ売っても良いし、思い出の品として持っておいても良い…ロバートなりの謝罪と友情の証だったのではないかなと思います。
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まとめ
謎めいた若い女性と、潔癖気味な年老いた男との純粋な年の差恋愛を描いた映画かと思いきや、まさかのツラすぎるどんでん返しのある映画でめちゃくちゃ面白かったです!
ただ泣ける映画というわけでもなく、ただただ恋模様を楽しんだ末に衝撃と絶望が待っているツライ映画なので好みは分かれるかもしれませんね。
なのでどちらかといえば困難の多い年の差恋愛がお好きな方、人間のドロドロとした部分が詰まっているけど幸せも感じられるような映画がお好きな方におすすめです!