ドラマ『ガリレオ』シリーズの映画『容疑者Xの献身』。
ドラマとは違った科学だけでは片付かないトリックと、ドラマと同じような切なく不器用なストーリーが魅力的な映画で、めちゃくちゃ面白かったです。
どちらかといえば不器用な恋物語がお好きな方、ストーリーにどんどん引き込まれていくような熱中できるミステリー映画をお探しの方におすすめ!
映画『容疑者Xの献身』の作品情報
あらすじ
男性ばかりの警察で一生懸命に捜査する女刑事/内海薫。
解けない難事件に遭遇したときには科学的な論理・実験をもとにトリックを明らかにする天才的な物理学者/湯川学の協力を得て、事件を次々に解決へと導いてきました。
そんな内海の管轄で、顔や指紋が消された無残な遺体が発見される事件が発生。
幸いにも身元や事件前の足取りがすぐに特定されたことで、容疑者として被害者の元妻/花岡靖子の存在が浮かび上がります。
しかし彼女には隣人/石神哲哉の論理的アドバイスによって、事件当日は娘/美里と出かけていたという完璧なアリバイが用意されていました。
有力な容疑者の完璧なアリバイに困惑する内海は、再び湯川に捜査協力を求めることにしたのですが…。
予告動画
動画リンク
映画『容疑者Xの献身』の感想
【面白ポイント】
- 不器用な恋模様
- 熱中できる映画
- 切なくて悲しい最後
不器用な恋模様
想い人と目も合わせられない、思うようにアプローチすることすらできないような石神の、不器用で初な恋模様にはニヤニヤドキドキするものがありましたね。
学生時代の初恋を思わせるよう初さと、大人だからこその勢いや若々しさのない消極的な感じが妙にリアルで、懐かしさと共感しやすさがあって良かったです。
個人的には石神が花岡靖子に惹かれるようになったきっかけが好きでしたね。
春の木漏れ日のような温かさ、誰も自分のことを覚えていない・求めていないという凍えるような孤独に悩んでいた石神にとっての希望の光。
花岡親子にとっては特別なことは何もしておらず、ただ隣人にあいさつをして普通に過ごしているだけなのですが…それが石神にとっては特別に嬉しかったのでしょうね。
だからこそ彼女たちのピンチにとっさに身体が動いて、協力してしまったのかなと思うと…何というか石神の純粋さを感じずにはいられませんでした。
もしかしたらちょっとした下心もあったのかもしれないけれど、最終的にはあくまでも彼女たちの幸せと笑顔を願うというのが何とも純粋で不器用で良かったですね。
なのでどちらかといえば孤独を感じている方、辛い状況でも希望や心の拠り所を頼りに頑張っている方だと共感しやすい映画だったかな。
ただ石神の恋模様はストーカー的だし、人によっては恐怖を感じる可能性もあるような雰囲気なので、陰ながらの恋心が苦手な方には不向きな映画かなと思います。
熱中できる映画
今作はすごくセリフが少なくて、目線・空気感でキャラクターの心情や思考を感じ取るような描き方がされているので、すごく熱中して楽しめる映画でしたね。
五感を研ぎ澄ませて感性をフル活用して見入って、キャラクターと一緒に物語を紐解いていくような…。
ただそれでいてちゃんとトリックを理解できるように、答え合わせはしっかりとセリフで解説されていたのでちゃんと納得もいくようになっていました。
何というか最初から最後までしっかりと飽きることなく熱中できる映画で、かつ最後までちゃんと満足感がありましたね。
個人的には口数が少ない感じが、容疑者Xの献身という世界観・石神や湯川というキャラクターにマッチしていたのも良かったと思います。
なんというか世界観・映像・セリフ・キャラクター・ストーリー・トリックのどれも満足いくような、めちゃくちゃ大好き&大満足な映画でした。
なのでどちらかといえば集中して映画を楽しみたい方、純粋に楽しめるミステリー・サスペンス映画をお求めの方におすすめしたいです!
切なくて悲しい最後
想い人を守るために自らが犯人だと言って自首したのに、花岡靖子が自首したことで泣き崩れる石神という最後はめちゃくちゃ切なくて泣きましたね。
ただ彼女たちの幸せを願って天才的な石神が用意した完璧な計画…初で不器用な石神なりの愛情表現であり恩返しのはずだったのに、全てが崩れ去ってしまった悲しみ。
石神の恋模様が共感できるためか自首をした時点で涙していたのですが、ラストで全てを失って泣き崩れる石神には、もうめちゃくちゃ泣きました。
被害者がいる事件だし、自主的であっても間違った犯人を身代わりのように逮捕することを良しとするわけではないけど…。
石神も花岡親子も、そして湯川も誰も幸せになれない…正しいんだけど、正しくなってほしくなかったと思うような、切なくて悲しいラストがめちゃくちゃ泣けましたね。
天才同士がやっと見つけた理解者であり友人を失う湯川の悲しみとか、ずっと怯えてどうするべきなのか苦悩する花岡とかも良かったのですが…。
個人的にはやはり石神に共感していたし、石神のラストがめちゃくちゃ切なく感じました。
なのでどちらかといえば自己犠牲の強いラスト、正しくあってほしくないと願ってしまうような切なく悲しいラストがお好きな方におすすめしたい映画でしたね。
映画『容疑者Xの献身』の考察
【考察ポイント】
- 雪山での石神の行動の意味
- 石神がトリックを重ねた理由
- 花岡靖子の石神に対する想い
- ラストの石神の「どうして」の意味
- 石神のその後
雪山での石神の行動の意味
石神と雪山登山に出かけた際、湯川が無視されて遭難しかけるシーンがありましたが、あれは別に湯川を亡き者にしようとした訳ではないと思います。
石神にとって湯川は唯一の理解者であり、自分のことを覚えて会いに来てくれた友人ですからね…花岡親子ほどではないにしても大切な存在ではあったはずです。
そして石神の大切な人に対する行動力や思いやりを思うと、例え湯川が計画の邪魔になると分かっていても亡き者にするという選択はしない…できないと思います。
おそらくあの時は交友関係の希薄さ故に誰かと一緒に登山をした経験がなく、普段登山をしていない湯川の体力が予測できず、自分のペースで進んでいたのでしょう。
湯川の方を振り返りながらも無視したように見えたのは、ただ単に湯川の状況が見えていなかっただけだと思います。
猛吹雪に加えて石神はかけていたゴーグルに雪がかかっていましたから、視界はかなり悪かったでしょうし…。
仕事を休むほど研究に没頭したり、湯川が持ってきた論文に夜中から明け方まで熱中したりして目を酷使していたことを思うと、視力も衰えていたのかもしれませんね。
そして少し前、湯川が疲れで立ち止まったときにも無言で大丈夫とモーションをしていたことで、今度も大丈夫だろうと思ってしまったのでしょう。
なので石神に湯川を亡き者にするような意図はなく、ただ単に他人と一緒に登山をする経験の希薄さ・視界不良ゆえに置いて行ったように見えただけだと思います。
石神がトリックを重ねた理由
偽装遺体・アリバイ工作・身代わり自首とトリックを重ねたのは花岡親子が逮捕されないようにしつつも、できるだけ自分も捕まらないようにしていたためだと思います。
石神にとって花岡親子を守ることが最優先で、最終手段として自分が身代わりになれるように計画を組み立てていたとは思いますが、できれば捕まりたくなかったはずです。
そもそも石神の目的は自分が身代わりになることではなく、花岡親子にできるだけ罪の意識を感じさせないようにしつつ、警察に捕まらないようにすることにですからね。
ホームレスを富樫に見せかけて亡き者にし、花岡親子に完璧なアリバイを用意すればどんなに疑われようとも彼女たちが捕まることはありません。
仮に本物の富樫の遺体が見つかったとしても顔・指紋を消してバラバラなら身元不明として処理されるか、富樫の身代わりになったホームレスと思われるでしょうから…。
すでに発見されている富樫かもしれないという発想になること自体がなく、花岡親子が疑われることは永遠にないという完璧な計画。
これであとは警察の捜査で別の容疑者が見つかれば良し、最悪の場合は未解決事件として処理されるはずだったのですが…湯川が現れてしまいます。
警察の目は欺けても、天才の湯川ならいつか真相に辿り着いてしまうと思った石神は、最終手段である自身が身代わりになる計画を実行せざるを得なくなったのでしょう。
なのでできる限り石神も捕まらないようにしていたのに、湯川が現れたことで計画していた全てのトリックを披露することになってしまったのだと思います。
花岡靖子の石神に対する想い
花岡靖子は石神に全く好意を抱いていないし、子供・仕事・生活に手一杯で石神の好意にすら気付いていなかったと思います。
おそらくですが花岡靖子がお弁当屋を開く前に水商売をしていたし、周りにいる男が金銭を要求する元夫・猛アタックする工藤とストレートな人間ばかりだったから…。
自分への好意・下心をストレートに伝えてくる相手ばかりに囲まれていたために、石神のような遠回しのアプローチに気付けなくなっていたのではないかなと思います。
というかそれに慣れすぎていたから、自分に好意があったり何かしてほしい人はストレートに要求してくるものだと思うようになっていたのかもしれませんね。
だから花岡靖子にとって石神は本当に不思議な人というか…なぜ自分に協力してくれているのか心底分からなかったのではないかな。
何せ犯罪の片棒を担いだわけですから…自分に好意を寄せているならば関係を迫るはずだし、金銭などを要求してきてもおかしくないはずです。
なのに石神は何も求めずストーカー行為の偽装までして、ただ手紙で漠然とした感謝だけを伝えて自分の身代わりになって逮捕されてしまいました。
なのでラストで花岡靖子が言った「どうして私なんかのために」というセリフは、本当に石神がなぜ自分に協力するのか分からないからこそのセリフだったのだと思います。
さらに「石神さんは協力してくれただけ、全ては私の犯行です」と石神をかばうのではなく、「私も一緒に罪を償います」と言っていたことを思うと…。
石神に対して、花岡靖子は娘を庇い・思いやるような愛情や、石神が花岡靖子に向けるような愛情といった特別を感情は持ち合わせていなかったのではないかなと思います。
最後に「ごめんなさい」と謝り続けていたことを思うと、石神に対してある感情はただ巻きこんでしまって申し訳ないという贖罪の気持ちだけだったのではないかな。
ラストの石神の「どうして」の意味
ラストに石神が泣き崩れながら言った「どうして」のセリフには、疑問・後悔・絶望といった色々な感情と意味が込められていたのではないかなと思います。
1つ目の意味
1つ目は自分が身代わりになって自首をして、花岡親子は幸せになるはずだったのに「どうして来たの?」という純粋な疑問。
自分のもとに来てくれたことや名前を呼んでくれたことへの嬉しさ半分、なぜ来たのか分からない純粋な疑問が半分の「どうして?」だったのではないかなと思います。
2つ目の意味
2つ目は花岡親子の幸せを守り通せなかったこと、彼女たちを完璧に守り通す計画を作れなかったことへの「どうしてこうなった?」という後悔。
彼女が自首しないようにちゃんと指示できていれば、自分がもっと早く自首していれば、湯川を関わらせなければ…など色々な後悔が巡っていたと思います。
こうしていれば上手くいったかもしれないのに、どうして自分はこうしたんだろうという自分を責めるような後悔が多かったのではないかな。
3つ目の意味
そして3つ目は花岡靖子に想いが伝わらなかったこと、彼女たちとの繋がりを失って再び孤独になった「どうして自分の想いが伝わらないの?」という絶望。
石神は最後の手紙に彼女への感謝を伝えながらも、どこかでラブレターのように自身の想いも伝われば良いなと願って書いていたと思うんです。
でも最後に彼女が「どうして私のために」と言ったことで、自分の想いが伝わらなかったことに気付いてしまったのでしょう。
そして石神にとってこの事件は花岡親子との唯一の絆・繋がり…例え自分が捕まろうとも花岡親子との関係が切れていないという喜びがあったのだと思います。
でも花岡靖子が自首してきたことでその繋がりが絶たれてしまった…彼女たちを救うことで見出した自分の存在意義や価値が、またなくなって孤独になってしまった。
そんな疑問と後悔と絶望が入り混じり、頭の整理がつかない状態で絞り出したのが「どうして?」という、色々な意味が込められた言葉だったのではないかなと思います。
石神のその後
捜査を撹乱した罪・ホームレスを手に掛けた罪で警察に捕まり、花岡親子も守ることができずに、刑罰よりも重い心の傷を背負って刑務所に入るのだと思います。
石神は花岡親子のためならば、彼女たちの幸せな人生を守るためならば自分が全ての罪を飲み込んで刑務所に入る覚悟でいました。
どこでも数学の研究はできるし、仕事にも特に未練はないようですからね。
でも花岡靖子は石神の気持ちを知らず…警察に出頭してきて、全ての罪を自白してしまいました。
花岡靖子としては娘のことだけはかばうつもりかもしれませんが、警察が発見した遺体の解剖をすれば、すぐに彼女だけではムリだとバレて…娘も捕まるでしょう。
石神は花岡親子が刑務所に入っていくのを、遠く・冷たい壁で囲まれた刑務所の中で…もしくは裁判所で、見守ることしかもうできない。助けられない。
花岡親子との関係を切られ、失恋・無力さ・絶望に苛まれながら、石神は刑罰よりも重い心の痛みを背負って冷たい刑務所で孤独に過ごすのではないかなと思います。
温かさをくれた彼女たちと繋がり続けていることが彼にとっての幸せだったのに、それを断たれて石神はまた孤独に逆戻りするのでしょう。
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まとめ